詩人:緋文字 | [投票][編集] |
今夜飲む
いつものやつ
うんと
甘くしたらいいよ
昔は
指つっ込んで舐めて
叱られたじゃない
叱ってくれる人
いなくなったのに
あまいの
苦手になったのね
おとなに
なったのね
喉に
いつまでも残る
刺さったような
あまったらしさ
なつかしいって
感じるくらい
今夜くらい、
うんっと甘くして
ここへ
持っておいで
あったかい甘さ
なんだかほっこり
するじゃない
私は
いつまでも
眠くならないから
君が
眠るまでの間
起きておくくらい
いつものことよ
今夜は
とくに冷えるよねぇ
そばに
寄れるだけ
寄っておこうか
君が眠るのを
見届けたら
私も
眠れるのかも
しれないから
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目をこらして
最初に置かれた色を探した
やわらかな階調
どこまでも拡がるようで
始まりも
終わりもないよう
見つけた、色
同じく淡いのだ けれど
彩度の落ちが
鈍く浮いて
沈みきれても いない
あの日の少年
水色の消しゴム
ピンク、
と言って笑われて
将来の夢 描きかえた
君が言わない事で
私は否定して
それを伝えずにいたら
それきりになった
見つけただけで
溶け合わなくなった
重ねるための
より近い色を求めても
あんな色にもう
見える世界には
『手を入れられないと
感じたなら
遠くから見てみなさい』
愉しませてくれたのは
至極 淡いものだったから
それより
強い色が置かれていない
そのことが 好きだった
笑われることを
恐れなかった
距離をとる
それだけの事で
ただの
単色の壁に
もう
過ぎていく景色
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コップひとつ
そのままにしない
きみにしては
山と積んだ
うちの一冊
手に取ってみても
その胸の奥底
読み取れやしないよ
放りなげたら 開かれた頁
拾いあげたら 飛び込んだ言葉
姿を探した
いつもの場所で 読む人は
なんて 可愛い声で
呼んでくれて
いたのだろう
今だから
思うけれど
振り返れば、
耽る素振り
寄せつけない
空気かもして
気難しそうに
わが身を
抱いた
数秒 待てば
おとずれた
シンメトリーに配置させた
この装飾達のような調和
望み通りの
何事もなくなった
ひっそりした空間を
後から
覗きこむ
歪んだ位置から
何度ここで
指を止めた
どんな顔して
口にした
思い出すのは
声色ばかりで
色への応えも 定着した頃
最後に見たのは
その 少し手前
すくんだ肩と
チグハグな顔
奇妙に映った
今、気づくけれど
風そよぎ 擦る音
いつもの場所で 読む人の
残留物だけが
腕をひろげて
ここへ来て、と 呼んだ
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こんなに
晴れていては 空
見上げずには
いられない
あなたもきっと見ていると
慕う人がいれば
誰しも思う
あんなに
晴れやかだった空模様
日のつとめを終える頃
すっかり覆われてしまって
いってきます、
空に見つけた 想い人
暗くなってもまだ探すのは
私ばかりではないでしょう
いつまで待っても
変わらずに
いつまでたっても
こみあげるから
足元たよりない夜道でも
かまわず
空ばかり見てしまう
想いは
小さくも
大きくなり過ぎもせずに
この私のまま
あなたの傍に
いてくれてるかしら
まるで
手にしたようであっても
寸分違わず
そのまま、
なんて
私にだって 難しい
そちらで雪が降ったころ
こちらは雨で
淋しくなるの
風にまじって
とんできて
頬にとまった
小さな雨粒
あなたもそんなものに
心淋しさを すこし
感じているといい
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情けない
声になってはいなかっただろうか
勇ましく
聞こえたろうか
乗せて
遠くなった
幻想と回想と
現実の悔恨に
目を落とした
手持ち一枚
見たような顔が
目配せをくれて
それが
決められた合図のように
踏んだ
降りられなかったのか
降りなかったのか
乗り合わせたのは
同じ理由だったのか
並んで座って 触れたら
照れくさいだろう身体
小突きあって笑えたら
伝えたかった
言葉はどれも
これも君がくれたものと似ていて
苛立ちが湧いても
もう充分だ、と
その眼は深く頷くだろうけれど
ふがいなくて
少し、歩き疲れた
そんな日も
顔を見合わせては
何処までも歩けてた
どこか頼りなく笑う顔
思い 描いて
いま目の前
笑んでくれたら
満足した顔で
やはり後悔を
しただろう
揺られる間
あの時は
見ようとしなかったもの
見ていよう
そして今度は
手を振り 笑って
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踏み鳴らす、
乾いた音 を
楽しむ横顔を見て愉しんでくれていた
左側の体温
コンマ3℃ほど上げて
顔があげれず
つめたい
指先 差し出した
人混みは苦手。
後ろに流れる景色
流すのはあなた
見送るのは私
撫でゆく片頬に外界を
人差し指は
どこまでも内に食い込む
真ん中から
裂けていく
多く
残ったほうを あなたに
このまま
誰ひとり
いなくなってしまうのかもしれなかった
一台きりで
のぼる車
続く 続く山道
のぼり続ける だけなら
カーブをきって
あらわれたものに
視界を
黄金色にふさがれた
車道の中央
息を呑む見事な幹枝
あの美しさといったら
予定になかった
予測できるものは沢山
あるようで
いつだって少ない
ハンドルとられ
一瞬 呼吸を止めたあと
吸い込んだ
思いの重なりに
小さく笑った
あの色
幾度も
鮮やかに蘇甦るのなら
そのことは
心配 いらない
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刷り込まれたもの
味得したものは
手の甲を舐めてさえ
甦る
匂い
発せられた数々の
いつ何時でも
思い起こせる
微細に鮮明な
そこにあるものたち
手にとれるかと云えば
手に取るように、
でしかなく
ゆえに
誰にも触れられない
確固たる
私のもの
私がどうしようと自由だ
私の自由でしか
もう
どうにもならなくなった
愛しいものたち
自由に駆けろ
かけて
駆けて
私の範疇など とうに越えた処まで
駆け抜けてしまえ
いつ何時までも
手もとにある
いとおしい
ものたちよ
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両手をあわせ
まるく
膨らませるように
紙風船のように
まるく
膨らませたこの手の中に
息を吹き込む
ひらけば
なにか
生まれていて欲しい
時間が経てば
紙風船のように
ひしゃげてしまうことはしっているけど
そうね
覗きこんだ時すこしの間
わたしにだけ見えるものでいい
なにか
みせてくれたらいい
わたしの中には
要らないものばかり
生まれて
でもあわせて
これも私
紙のように薄い
生き方かもしれない
と思う
なにも遺せず
なにも残さない
それも幸
これも私
少なくとも 拉げるまでは
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しゅん、しゅん、しゅん
ストーブの上の
笛吹きケトル
今日は なにが
あったかね
くすんだ白の割烹着
せわしい背中を
見ていると
舌が滑らかにならなくて
視線はいつも
湯気の向こう
しゅん、しゅん、しゅん
たいていケトルの隣には
大きなお鍋が置いてあり
早々 夕餉を告げたけど
アルミホイルに包まれた
ミカンがたまに
置いてあり
冷たいまんまが
美味しいよう、
温くて苦くて
わざわざ不味い
本当は
すこし 楽しみで
芯から冷えた
手だから素手で
触ってよこして
平気なのでしょ
風邪ひかないようにって
食べたんだっけ
しゅん しゅんっ
しゅん
カチリ、
火を消した
湯気の向こう
彼のひとの顔
ちらりと見えた
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もう 初めて、が
すっかり
少なくなってしまって
今年 初めて
今月 初めて
今日 初めて
無理やり
初めて、をつくってみたりするけども
お正月は
お宮も大盤振る舞いで
大吉なんて
出してくれただろうけど
私達がお詣りする頃には
末吉やら
小吉やら
功利主義擬きの神籤屋が
結局、禍福糾えた
どっちつかずの紙っ切ればかりになっている筈で
それでも
今年初めて
今月初めて
今日初めて
なんて言いながら
一年が始まることを
馬鹿ばかしいのだけど
楽しみに待つんですから
言わないけど
そんなもんなんです
早く雪国から
お帰りなさいませ
あなた