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緋文字の部屋  〜 投稿順表示 〜


[122] 鞠子
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ついていた
何時みても
同じ場所
数え唄必要とせず
その為に
生まれてきたかのよう

迎えは来るのか、
見える場所から声をかけた
口許緩められず
伏せた睫毛も上げてこない

ふと
取り上げたくなった
その子の周りを
つく音だけが
責めるように響くから
そんなものが
鞠が無ければいい

外さなければ
一点をつき続ければ
そんなことを
信じているのか
鞠は戻る その子の手に
吸い寄せられるよう

かなしくなる
その音に
遮りたくなる
衝動が間違いだと
音が止まない
何も聞こうとしない
聞きたくない
意思で投げられる前に
止めて いいのだろうか
よくはなかった

それは上手につく
鞠で喜ぶ子など
消えてしまった時代に
術がないかのように興した 錯誤な遊戯
冷ややかな顔した子
熱気だけ立ち込めて
通り過ぎる者も
解らぬくせに
焦躁の汗だけは垂らす
解らぬなりに

並んでついたなら
止めて、と見遣るだろうか
その子の待つもの現れたとして
その音は止むだろうか
その鞠が
どれだけ今まで
その子に
必要とされただろうか
その子が
瞳の奥まで覗かせたとして
その瞬間を見逃さず
判る者として
いれるだろうか

2006/02/25 (Sat)

[123] new moon
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月の先
腰掛けて
はらはらホロホロ
弾きながら唄った
あのこの片足の靴
いつも
ぷらぷら
落っことしてしまいそう

月が満ちると
向こう側へ
必ず隠れてしまうのね

今宵三日月
つるんと降りてきて
また先っちょに
うまくとまった

ぷらぷら

あの靴が
もしも脱げ落ち
受け取ったのが
もしもこの手
だったとしたら

気まずそうな顔とか
するんだろか
思い過ごしね


抜け落ちそうな靴で
ぷらぷら
呑気そうな
リズムをとって
奏でるあなたの
まるで合わない 脈動が届いた

はらはらホロホロ
それでも
聴いていたいから
あのこの
華奢な足には
似合わない
あの靴
落ちたら
拾い上げる くらいなら
できるのかもしれない
おこがましいね


呑気そうなあのこ
いつも緊張していて
キッと上げられた顎は
下を向くことはない
見えない指先はきっと
キュッと曲げられてる

絶対に
落とさない
決めてるんだろうね

2006/03/04 (Sat)

[124] 春が きた
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白無垢姿の嫁様みたいね

白木蓮
好きな花に挙げていた
貴女の散り際

百から引いた方が早かった
それでも愛らしかった

綿帽子姿で送り出したのは
誰の配慮だったか
聞く事ができたなら
貴女も嬉し泣けたのかもしれない

共に暮らした四倍の時
ひとり背負って

貴女が最期まで気にしていた者が
最後に貴女の為にした
人らしいこと

また、らしさを失ってしまう前の
一寸正気に戻った
穏やかに流れた時間

二十四時間も持たなかったけれど

立派な貴女に
恥をかかせたくなかったのだと
返したかったのだと
そう思ったら
少し和んだ

写真の中の其の人に
顔は一番似ていたものね

時は早いね

速いのに
過ぎてくれないね

また春がきたよ

あいつが動く

2006/03/07 (Tue)

[125] 見えて入ったと言う
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見える 見えない
見た人が いる
見えたか
どうだか

踏み入る数だけ淀む
濁れば底見えぬと怖れる
入り交じる錯視
身を避けて流れるものへ
眼をやった揚句
列んで体感速度は増す

箱の中 声も立てない
小猫は一匹 流れてく

足をとられた
躊躇の間に
埋まる埋まる
仕舞いに
押し寄せる厚さない壁
見立てたばかりに潰されて
抜けなくなったの
ひとやすみ

澄んでいくまで
待つのね


後退できない
あの猫のよう、
ならよかったの


瞬発力も持たない
嗅ぎ分けようともしない

猫は水を嫌うよ

2006/03/08 (Wed)

[126] 使用に交換された価値
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ふたり
騙し絵を見た
どんな風に見えたかは
知らない方がいいと思った
暗示させたりすることが
あってしまっては嫌だから
それぞれに黙って
見えてくるものを見た

必要なものは
支払わなくても既に揃えられていた
無条件に持たせてもらったものに忘れた感謝
使い方を間違って
心細さに
アレが無い、と慌てる

手に入れたくて
しかたがなかった

補う様に居てくれた人と
よりよく過ごすために
無駄なものは捨てよう
そして持ち寄ったもので
静かに暮らそう

残したモノは必要なモノ

きっといろんな使い方
あるわね

2006/03/10 (Fri)

[127] 無題
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眠るまでの間
少しずつ
思い出した順でいい
どちらともなく
眠ってしまってもいい
昔話をしよう
もう
見ることのかなわない
その憧景に想いを馳せて
微笑ましい嫉妬を胸に
抱いたりして

聞きながら描いてる
その頃の僕
その頃の私
その前に立つ
その人も
お互いに
見知りはしないけれど
その瞳に映った景色
その横切った風
その聴いてしまった音も
知る由も術もないけれど

でも、ほら今
心に描いてくれている
それはそのまま
そうだったんだよ、って
何故だかわからなくても
言い切れてしまうのは
何故だろう

ずっと昔から
知ってくれて
いたのでしょう
ずっと遠くから
見てくれて
いたのでしょう
やっとここまで
近くにこれた、って
きっと私達以前の私達も
そんな話をしていたと
他人には
わからなくていい
説明は
つかなくていい
とにかくそうだと
言える
馬鹿げていても

動かないものが
確かにあるんだ

もう
いつ どこにいても
幸せなんだ、と
言える

2006/06/22 (Thu)

[128] 
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憶えてなかった

しがみつかれていた腰は
末子の腕でも一巡り
印象深く残してしまって
記すものを
私がずらした

憶えがなかった

恰幅よい躯につく顔は
就床時に盗み見た
子供特有の脅えとか
そんなもの のせいで
記すべきを
私が抜いた

繋げたろう手 なくした時に
その子も なくしたばかりだった
まだ 逃避知らずの無垢な手の
逃避ではない
という事が肝要で
ひしと有り難かった

アーケードを抜ける時
電車を乗り降りする時

頭の重さが先にきて
絡まりそうな歩みに合わせ
見下ろせば
満悦と見上げる顔に
どこか胸張り
前を見た

この頃は あの人と
繋ぐ、というより
触れているのか
いないのか
それは とても合っている

振りほどく、のでない
摂理で解き放つ時にも
指先なり どこかしら
気持ちと同じく
締め付けないよう
それでも しかと
この人は繋いでくれているのだ、

思えばいつも 要した手


いま目前には憶えある
私と同じに黒子ある 手
様変わりして
これでは
大して 私と変わらない

この手をとれば
雑りものなき ひと踏みめ
手を繋ぎ
歩いてくれたのは誰か

私の心は 正しく
確認
するのだろう

2006/06/28 (Wed)

[129] 赤と 黒
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好いな、と
呟いてみせた
大河を渡る水牛の画一枚

あれから

奇しくも此処で
ふと目に留めた
黄なびた壁と同化して
黄土の河
より
渡りきれぬものにされた
黒い頭

爛々とした眼は
ブラウン管を通して合わせた時より
思いがけず強く
諭してくる様であっても
もがいているようには
見えない


拒んでよじる身も
気付けば同じ流れ
ただ 先に続く


色が 色が
薄れていく
代わりに
黒く変わる準備を始める



渡されたものは
人の物と思えぬほどに
黒かった

そんな色で あっては、と

それらすべて
押しもどし
詰め物にしてしまおうか

鯉のように動く口
ただ交互に見ながら
そんな事を考える

芳情に与った
そんな口ぶりでの
ありがとう
言われて 戸惑い
また 悔しくある有様


疑いながら
極当然のように想像していた
時がきたら、と

借り物で流せたのは
借り物の心


底から出る
ものが聞きたい

理不尽でも不道徳でも
大切にしておく価値などないような
酷いものでいい

一声 ひと鳴き


受け継ぐ準備を始めた

2006/09/27 (Wed)

[130] 分量
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強く力を込める時も
指一本の隙間は残して

預ける時の配分も
自分寄りにきちんと残して

力まかせ
がんじがらめ

すべて寄越して
もっと預けて

残し加減は難しく
案外そこで
力んでいたり

残す意味が解るから
それを寂しいと称することも
それが置き去りになることもなく


ありがとう は
その力に向けて

2006/10/03 (Tue)

[131] 劣情
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まなこ遭わせれば
そこに女が在って
捕らえようにも
引きずり出せず
のうのうのさばる女
ここにおる限り
お前には届かんと
言わんばかり
一瞥したきり
こちらには目もくれず

そこにおる女ぬくぬくと
心地がよさそうで
脳裏に焼き付く白い太腿
恨めしい、と唇噛んだ

眼前の鏡にうつる女
よくよく見比べてみても
見開く眼、唇の紅さは強くとも
その女と爪の型まで姿は似ていて、反る足指
チラつく残り画に
キィィと袖を噛んだ

何が違うのか

あの場所へ移りたい


まなこの主が
勤めのように努めてくれる御蔭で、おる女も忌ま忌ましい顔付きで居られるだけなのだ

何が違うと言うのか

このまなこに映る女
あの場所の女とは似て異なる


早う あの女の姿が見たい

2007/01/17 (Wed)
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