詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
ワインには
ポリフェノールが含まれてるから
体には
まだましな酒なのだろうが
どうにも
それほど
好きになれない
葡萄の香りも
その姿も
味わいも
堪らない程に
好きなのだけど
レーズンは最低だ
どうでもいい話し
どうにも
好きななれない
会社に
社長の娘婿がいるのだが
俺は
人間を愛してはいるけれど
あいつも最低だ
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我が家の冷蔵庫は
もう15年も働いてくれて
有り難い
玄関の扉に錆で穴が空いた
嫁が少ない家計から
材料の費用をやりくりして
パテ埋めしてみた
これでいい
クリスマスツリーのてっぺんに
星の飾り
上の息子は
勉強は出来る方だが
素直過ぎて
社会へ出た後が
不安だ
手紙はとてもいいと思う
自分の事ばかり
書いてしまう理由が
恥知らずのように
残るから
それらは
とても自然と調和していて
文字の筆致のなす
加減と決意が
まっさらな紙に
織りなされた織物のように
鮮やかじゃないか
明け方の
静かな台所から
冷蔵庫のコンプレッサーの
動き出した音がだけが
外の鳥のさえずりと
寄り添うように
聴こえた
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いつか
片思いだった女性が
フォレスト・ガンプは
リアリティーが無いと
軽蔑した
もう我慢しなくて良い頃合いだ
映画にリアリティー
もう映画
なんか
見ないで貰いたい程
がっかり
させられた
人が
誰かに
何かの手段で
思いを伝える行為に
あらゆる手段はあるが
それらは
完全な虚構に
ほかならない
表現に伝わる力が
見い出せないなら
生きる意味は
楽に見殺しか
バス停で
お別れした
それでも
音楽だけは
味方してくれて
僕がどんなにか愚図で
能無しでも
たぶん神様ならそうするように
優しくしてくれた
夜明け前から
日が暮れるまで
倒れる寸前くらい迄釣りをして
眠りたい分を通り過ぎ
眠りたく無い部分をさらに超えて
眠った
はだしのゲン
アームストロングが
月の大地を踏みしめ
エルビスが鍵を開け
ビートルズが扉を開いて
アンディーウォーホルがキャンベルスープの缶を切り
山下清は花火大会の最後の切り絵の一枚を貼り終えた
時期だとか人の要領
時代の雨脚を振り返る
確かさを
考える事を考えると
嘔吐した
エクトプラズムが
彼女の形になり
息子達が産まれた理由になった
もう今は何も
こうして
恥ずかしくて
いい
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恋いが
あり焦がれている
きっともっと
恥ずかしい
弱さと
たむけたい
クズとアクタ、ゴミ
突然と
景色を淀ませる
雨とその音
いらない予報
足もとの
水溜り
ありがとう
そこに
戦がせて
下さい。
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何かに
驚いた時も
驚いたようなふりを
して
見せているように
感じてしまう
「洗濯機から変な音がするの」
「もう、買い替え時だよ」
「子供達の塾の授業料もあるのに?」
メガネのレンズを拭く
そして
掛け直す
アイスクリーム
昨日買ったそれを
冷凍庫から取り出し
舐め回す
船酔いを知らない人に囲まれた
船酔いみたいに
辛い
飼い猫が
何かをせがむように
足に身体を擦りつけていく
後悔と航海
理由の所在を思い巡らせる
いたたまれない衝動
登校と投降
音楽室のメトロノーム
誰にも怯えず
驚いてみたい
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古井戸に石を落とす
耳を澄ます
何にも
聴こえない
何にも
思わない
エンドロール
ボクシング
ボイジャー
テーブルに落ちた水滴を指先で横に引っ張る
トレコロール
ガーゼ
キューブリック
空に落とされた
凧揚げの紐が指先に食い込む
タイフーン
アプリコット
ミレニアム
後悔ばかりたから振り返る気もしない
何にも無い
空
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小さな頃から
嘘が好きだし
嘘しか
話す気になれない
耳のそばを蝿がかすめる
シーミーと言って
年に一度
沖縄では親族がその先祖の墓に
集まる風習がある
本当に見た事にしか
語る価値を感じない
母の実家の墓は
本島に寄り添う
ごく小さな島の丘のふもと
建ち並ぶ墓の中
団地のポストのような一角にあり
あたりまえみたいに訪れてきた
子供の頃から
なぜたが
自分達の墓のある場所から
上に登った事が無い事に
その日
登ってみながら
初めて気が付いていた
各階のような墓のある等列が
段々ごとに
整然と続いていたが
終点付近は
異様だった
蝿が
そこら中を飛び交い
犬小屋みたいな墓が
いや、ただのコンクリートの箱が
横に向かって二三十は並び
中にはコンクリートの蓋が外されたような箇所もあって
寒気と鳥肌を感じながら
わけもわからず
とにかく
その場をあとにした
帰宅してから
夜
大雨が降りそそいだ
台風が近づいていたのだ
この嵐の夜が
何もかもを洗い流してくれるように
祈るように布団の中に縮こまり
何もかもが外で雨風に打ち震え
遠退いていった
今も毎年シーミーはあるけれど
もう二度と
自分達の墓のある所から上へは
行こうとは思はない
俺は嘘が好きで
懲りない方だと
思っている
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人生に
早送りのスイッチがあったとして
いつでも押せたとして
いつ押すのか
週末の休みの日迄の辛抱だと
仕事に喘ぐ日々
喘ぐくらいなら
早送り
望んで選んだ仕事ではなかったのか
馬鹿みたいなリプレイの押し問答
損なのか得なのか
笑われたいのか
笑えないのか
早送り
場面場面の
かくれんぼ
決して人生に巻き戻しは
妄想以外にはありえない
もう無理
早送り
母ちゃん
貴方が俺を産む苦しみの時
早送りできたらな
良かったのに
早送り
いつか来る
死ぬ間際の苦痛の絶頂すら
早送り
どうしてだか
それくらいなら
レコード盤に針を静かに乗せる
早送り
できないように