| 詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
不注意もきっとあって
仕事柄だとしても
何本もの指が
絆創膏だらけだ
忙しさに追われ
爪先は真っ黒で
萎びてきた絆創膏の上から
さらに絆創膏をしてやるから
寒くて乾燥する時期には
他の指もささくれて
見せられたものではない
指によく怪我をする人間は
周囲の人を傷つけるたちがあると
聞いた事がある
迷信でもない、と思う
家に帰れば
育てているはずの
小さな観葉植物が
大きく育たないよに
伸びてきた葉は
切ってやっている
葉を切り落とす時
心の中の何処が
わずかに軋む
それでも
絆創膏を新しく
取り替える事くらいしか
やれることはない
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夕映に
翼をひろげ
背中を向ける
白い鳥の
片翼の先が
コリドーのように
どこまでも続いていて
光の加減で
淡い紫陽花色にも
羽毛がさんざめき
振り返りもせず
ただそこにある
そのことの意味合いを
知ろうともせず
我慢してるわけでもなく
ひたすらなぞるように
歩み続けている
こんな静寂が
そんなにいやでもない
けれど
嫉妬だけはあって
例えば
点描画の黄色い一つの点や
トライアングルのただ一度の響き
なんかにだ
優れた画材や楽器があっても
要はその使い手なら
紙面に文字を
這いつくばらせたままに
しているのは
私自身に他ならない
できることなら
翼のいらない
消えない流れ星を
したためてみたい
夜空を見上げた
瞳に映る
東の地平線から
西の水平線にまで
満天を横切る
またとない
閑寂な一筋を
天の川のせせらぎのたもと
繊細な白磁器のような
指先を握りしめ
自分の鼓動とは違う
魂の高鳴りを抱き
星々のはざまをぬうように
繰り返し、繰り返し
ターンしながら舞踏会を踊る
よどみない
旅路の残像を
焼きちらしながら
そんな
まんべんなく
精錬された
命の切っ先の
あらわな感触の創意を
紙面へ穿ち続ける
エンドロールの終わりまで
名もなく
過ぎ去ろうとも
「なにを書いているの」
「詩さ」
「そう」
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深々と
深々と
首もとのマフラーに
鼻先を押し当てて
胸いっぱいに
吸い込んだ
冷たい空気を
耳にも聴こえながら
しっかりと
吐き出すと
いくらかでも
暖かな吐息が
首もとにまでに
広がって
このさき
どうにもならない
わけでもないような
どうにかなるような
そんな僅かな期待が
やっと
感じとれた
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たいしたことのない
たいしたことのない
たいしたことのない
つよがりを
たいしたことのように
たいしたこともなく
たいしてよくも
書けてきた
惨めさが
私の敷布団
情けなさが
私の枕
せめて
慎ましさの掛ふとんに
肩までくるまり
恥ずかしさ
恥ずかしさが
恥ずかしさだけが
この私の脳内から
我慢のならない
しょんべんみたいな
自虐的な勢いで
吹き出され
情けなさの
恥知らずのままでもよいから
まっさらな
まっさらだった
あの頃に
すがりつかないように
どこへも
とどこうりなく
うしろめたさもなく
わだかまりも承知で
寝小便を
書きちらす
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満月の
手配りで
鍵を落とし
石膏の
肌足しに感触が残る
右周りに坂を登っている
あたりには
何も見えはしない
どこからか
遠く
マリンバの音が
していて
たとたどしいような
忘れがたいような
とりもどしようもない
気持ちになっていった
途中の断崖に
魚の目をした
トドが四頭いて
中でも一番デカイのが
ゆさゆさ動いて
こちらの方へ
向かって来ても
逃げ場は
登るしかなく
あるといい
しっかりとした
綱引き等に使われる
綱が
頂きまで
のびている
きっと
しゃにむに
たぐり寄せたなら
たどり着いた
頂きからは
高所から見える
下りが
努力してきたぶん
大変そうに
そう言えば
鍵は
どれほど
そんなに大切だったのか
どうなのか
「お願いだから振り返る、ふりをして」
「そうしないと、どうなるの」
「月のような、ひとつ石になるの」
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いつでもいい
どこであろうと
呼んではくれないか
俺の名前を
狭い路地裏
鈍い音がして
尻もちをつくくらいに
出っ張ったコンクリートに
頭をしたたかぶつけて
見上げると
俺の名前を
呼んで
腹が千切れそうな程
笑っていた
そんなに
可笑しかったか
ふらふらしながら
嫌では
無かった
俺の名前を
呼んでくれないか
そんなに
そんなに俺は駄目か
深夜に
闇鍋を外でして
低く垂れ込めた鰯雲が
大空を覆って
沈む月が
雲と水平線の間に差し掛かる
あんな荘厳な景色は
二度と見たことがない
また
俺の名前を
呼んではくれないか
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書き手の
取り扱い説明書みたいな
文字がいやで
机をひっくり返し
椅子も蹴り倒すと
テレビまですっ転がって
消えてしまい
そのまんま
縮こまった
雑魚寝みたい
上っ面を引っ剥がし
恥知らずな寡黙ぶりと
よくよく比較して
二枚舌が三枚、四枚に
ベロベロ増えないように
どこらの雲のかたちに
チョキチョキ鋏で
刻んで
ばら撒いてやる
外反母趾
広大無辺
焼肉定食
何でも構いわしないさ
痛みで
飛び散って
分からなくなれ
何にもなれないまま
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カーテンを開いて
窓ガラスに
散りばめられた
雨風の水滴
冷蔵庫の音が
ダイニングまで
聞こえて来る
景色を眺めるのが
なにかしら好きなのは
どうにも変わらない
四階の端の窓からは
階段が目の前だから
誰かと目の合う事も
あるかもしれない
つまらない、よね
どうしても
こうして
いたい
理由を
求められる事が
何より苦痛だ
誰かの為に
いるわけでは
ないから
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見たことを
どこへも
つれてはいかせたくない
赤い靴
履いてた
女の子
文脈が鏡だとしたなら
泣きながらかけだした
彼女が探す
誰かは
その痛みを
知らないから
無視出来るだけ
やや、朗らかで
ああ、泣きたくなる
二度とは言わないから
どこへも媚びへつらわないで
おくれ
赤い靴と
引き換えに
尾びれを得た
女の子は
人魚となった
大海原へ
そして、今日も
やっきな誰かに
探されてはいるが
むこうは
あなたを探している
たとえ
疎まれようとも
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血飛沫のような
遺伝部質が
僅かに私にも
降りかかって
いたのかもしれない
言葉は実際
指先に感じる感触ほどに
思考のどこかしこの毛細をも
ゆき巡れる
と、言うよりも
疎通と言う意味において
具現化の手段としては
最も簡易的で
そうでなければ
考え事を
言葉に変換する必要すら
うまれまい
神と言う言葉は
誰にでも開放されたが
それは
言葉は神という
その形のあらわれに
他ならない