詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
金属の研磨作業を生業にしている私の指先の爪には
真っ黒な油の垢が
どう洗っても落ちずにこびりついている
それに
バリの付いた
加工されたばかりの高熱の金属を掴み続けるあまり
足のかかとみたいにガサガサに固い皮となったこの手のひらは
買い物の時なんかには
レジの若い女性の店員からお釣りや商品を受け取る時なんかには
どうにも気持ちにやりばのない、恥ずかしさが込み上げる。
手相なんてものは信じてもいないけれど
歳を追うごとに
腫れ上がった手のひらに
峡谷みたいに深い谷を辿る生命線が、この命を堅実な使い道で役立てていれているような、そんなふうな軌跡なのか期待なのかを
探してみたくなる。
こんな手のひらでも
背中を撫でるように優しくさすってやると
子供達は寝つきがよく
すやすやと眠ってくれる。
子供の頃
仕事の為に衰えていく父の体の節々を、母は「金の錆」がついたのだと話し、父をねぎらっていたっけ
折り重ってゆく日々、そしてまた日々の果て
家族を養う主の体には
稼いだ「金の錆」が残るらしい。
妻はこんな手のひらを「好き」だと、その頬にあてがってくれる。
kikaku2012「手」