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遥 カズナの部屋


[162] 灯火
詩人:遥 カズナ [投票][編集]















水が流れていない
川の岸部にたち
ポケットに手を入れると
四角い小さな、薄い手触りのものが入っていた

街中の窓から外へ投げ捨てられた本
冷たい鍵を回し
大排気量のエンジン音を轟かせるブルトーザーの運転手達は
それらをかきあつめ
押し出すように
水のない川へ捨てていた

低い影をたらす
崩れかけたアパート
屋上では
すっかり手足の冷え切った子供達が
全てを見下ろし
しゃがみこむと
凍えそうな体を小さくまるくして抱きかかえていた
下にある
それぞれの階の一室一室では
体を穴だらけにした
眼光だけが日に日に鋭く尖っていくドン・キホーテ達が部屋中を引っ掻き回し
なにかをとにかく探していて
要らないものを
窓から投げ捨てていた

今、ここにマッチがある

「マッチ、マッチだって
時代錯誤も甚だしい
そんなセンチメンタル
教科書だって載せやしない」

どれが、どこで、どう使うのか
本人は把握しているのか
信じがたい数の鍵を腰にぶら下げた番人面が言う

でも、俺には
わずばかりのマッチしなないのだ
凍えそうな子供らと
寄り集まり、温もりを分かち合いたい

今、ここにマッチがある

足元の
水のない川には
捨てられた本が山のようにうずたかく
積み上げらていた。














2014/04/27 (Sun)

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