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遥 カズナの部屋


[290] 心に残らないのなら何の意味があるのか
詩人:遥 カズナ [投票][編集]

小3の頃
兄貴の
自転車の後ろに乗り
片手に竿
もう片手に餌
えっちらおっちら
埋立地のもう向こうへ
釣りをしに
出かけた

途中で10円ハゲが
「泥棒と巡査」をやろうと
誘ってきたけど
兄貴は無視して
ギコギコ自転車こいで
防波堤に着いた

袋から臭い餌を出し
針に刺して
テトラポットに降り
仕掛けを投げて
座って
浮き見て
ぼんやり

もう
夕暮れ

パトカーのサイレンが
聞こえたのは
あとから思いだした

10円ハゲは
あの後
一年生も誘って
「泥棒と巡査」を遊んで
巡査が捕まえた泥棒を
裁判して
防波堤の端で
海へ
突き落として
しまっていた

突き落とされたのは
近所のアパートの一階の
顔見知りの子だった
葬儀に半狂乱の母親の声に
外に立ちすくんで
ドキドキしていた

10円ハゲは
同級生だったが
1、2年して道端で
プラモの組立てをしていると
現れ
話しかけてきた
「それ幾らした?」
「200円」

それっきり
二度とは会わなかった
家もどこにあったのか
事件の後どうしていたのか
兄弟はいたのか
一緒に遊ぼうと誘われるような
そんな間だったはずなのに
何も覚えていない
忘れてしまいたかったのかも
しれない

でも
クラスの記念撮影に
その姿は
確かに今も残っている




2020/08/16 (Sun)

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