詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
犬の臭さは
よくよく撫で回してやった
指先を嗅ぐと
よく分かる
あんなに身近にいて
なにか、かっこよかった犬を
私は他に知らない
仲間の部屋で
よっぴで語り合っていた頃
早朝の犬散歩が日課だったようで
ついていく事にした
リードを付けられ
ゴールデンレトリバーに柴犬でも
混ざったような
ようは、ただの雑種の風貌をした
その後ろ姿について行く
すぐ近所の
門扉の向こうから
でかいシェパードが
がなりちらすように
吠えたててくる
毎日の事だそうだ
すると
べつに吠え返しもせず
3メートルはある屏を
助走をかけて駆け上がるような
そんなしぐさを数度か繰り返す
まるで
「いつでも、やってやるよと」
言わんばかりに
驚いたけれど
飼い主が肝を冷やしたのは
まったく別の話しだ
道の反対側からやって来た
散歩に連れられた土佐犬に
遮二無二に吠え盛った挙げ句
首輪がはずれて
飛びかかったそうだ
当然、あっと言う間に
ねじ伏せられ
殺されかけたのだと言う
それだけじゃない
台風がやって来た夜
犬小屋の杭が外れて逃げ出し
翌日には戻って来たのだが
近所の庭で飼われていた
雌のラブラドールレトリバーが
野良犬に妊まされた話しがあり
どうやら、どうやらのようで
証拠もあるわけがないが
子犬達の毛色やら目鼻立ちが
どうにも、そうだったようだ
散歩から戻ると
部屋で子犬のころの写真も見せてもらい
すっかり好きになってしまっていた
それから
県外の専門学校へ赴く事になり
電話では聞かされていたのだが
人を噛まない気性に油断して
ビーチで放し飼いにしてしまい
車道で車にはねられ
大怪我をしたとのことだった
夏休みで帰省したおり
さっそく仲間の家の庭を訪れ
名前を呼ぶと
力なく立ち上がり
後ろ足を引きずるように
歩みよって来てくれて
抱きしめるようにして
よくよく撫でてやると
涙でぬれた頬を
ペロペロと舐めてくれた
それっきり二度と会うことはなかった
今頃になって
どうしてその犬の事が
思い出されたのかは
さだかではないが
変わらずに
思っていることはある
「ありがとう、ありがとう太郎」