ホーム > 詩人の部屋 > 遥 カズナの部屋 > 山猫

遥 カズナの部屋


[99] 山猫
詩人:遥 カズナ [投票][得票][編集]

月光が裂いた
木々の影絵の獣道

油断を欠片さえ残さぬよう
枯れ葉を宥めすかすように踏んでゆく

松ぼっくりの兄弟達
置いてきぼりの蛇の脱け殻
イタチの乾いたあばら骨

狼共の縄張りをやり過ごし

フクロウ達には会釈をする

近頃は
犬の匂いがするから
どうやら
人間が来ている




もうこの森には居られ無い



峠から臨む満月
輝く琥珀色の毛並みを
サラサラと逆撫でされて
身震いし 振り返れば

麓の谷に流れ込む風が
海の白波のように
森一帯を撫でながら
こちらへ駆け上がって来ていた




生まれ育ったこの森




寂しささえ
残せない獣道

闇に怯える
蛙や鼠の気配を求め
銀に輝く流れ星は
峠の向こうで

スッと消えた…








2022/10/08 (Sat)

前頁] [遥 カズナの部屋] [次頁

- 詩人の部屋 -