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高級スプーンの部屋


[464] 開幕のイリュージョン
詩人:高級スプーン [投票][編集]

女を殺した
常世の国で子を抱く
貴女の匂いを醸すから
優しい手
清らかな体
どれ一つ取っても
叶わない
手に入らないものを
どうしてお前が

蘇る情景に
沸き上がる不快感
言葉では表せない
言葉ですら表せない
訴える眼に
振り向く素振りもなく
母は笑う
腕の中で眠る
我が子に向けて

温もりを与えられず
空いた心を満たされず
指をしゃぶる姿を見て
込み上げる憎しみ
今も変わらず

張り巡らされた
伏線の果てに
再び出会い
暗がりから目覚める
ずっと見ていたのに
何も見えていなかった
大事に抱えている
赤子のように
眼を閉じていたから
貴女だって
何も見えていなかった

器に埋められた種は
育ち花咲き散る前に
芽が出てすぐに
摘み取られ堕ちた
枯れない幻想が
咎める理由となって
責められても
抵抗すら出来なかった
辛いのは
苦しいのは
幸せになれないのは
自分だけじゃない
愛されなくても
信じているから
喪失った今も
変わらずに

始まりは
終わりが来るまでに
収束してしまい
限りなく近付いても
一つにはなれない
貴女にはなれない
赤子にはなれない
愛は返らない

母は今も
母のままで
床に転がる女の事も
思い出した悲哀も
昨日の景色さえ忘れ
朝を過ぎた街に出掛ける

2006/01/01 (Sun)

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