詩人:亜子 | [投票][編集] |
ちいさな靴をみつけた
一息で年月を吹きとばすと
花のかざりをつけた
エナメルの靴だった
少しこすると
ぴかぴかと大好きな艶を
思いだして
むかし私に似合っていたことをほんのりと教えた
エナメルの靴はそれから
もう履かれないさみしさにひとなでされてから
また箱にしまわれた
けれど人との記憶は
履きつぶせないから
会いたい
会いたいと
そればかり
私に忘れられないあなたと
穏やかな忘却の箱にしまわれたエナメルの靴
どちらが豊かな旅路だろう
そこはかとなく
なにかがとけていくような
記憶の旅情がすぎるとき
私はかろうじて
片道切符で
ふみとどまる
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僕は守られていると
本能にしがみつく
欲望が云う
僕は歩かされていると
現実を迷う
歩幅が云う
その真ん中
掌の懐中時計のネジを
きにして回し続ける日々に
時折カチリと大きく響く
鼓動の一音を聞き
時を知る
その真ん中
新芽を揺さぶって
灰色のアスファルトの昏迷を洗う
雪解けの一音を聞き
春を知る
増えていく旋律は
遠のくばかりに
こだまする
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どこからか流れる
血が瀑布を通り
水玉重なり鮮やかに
透ける世界
裏切りのない色は
無重力の自由を念い
樹となり
花となり
雲となりに
のこしても見届けず
もうおちる
飛沫の余韻を
せめて響かせて
凍らない流れに還ればまた
姿形忘れて
一条の河
それでも濡れた指が
紆余曲折の腕を昇る
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窓の外に 思惑の嵐
とどまる場所はどこにもない
部屋の中に 思惑の囁き
逃げこむ場所はどこにもない
東風がいう
僕らはゆく季節
まい落ちる真白い好きに汚れても
そっと指先なめて
不透明なやさしさをさしだしたい
空の上に 思惑の静寂
僕らのこころが青ならば
凍える冬は
どこにもない
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私の愛は 愛と出会うまで
とても雄弁に愛を語った
光るアーモンドアイで
宝石をしる夫人のように
ひそやかな笑みで
未来をしる占い師のように
かけひきを彩る手で
手品をしる奇術師のように
饒舌に濡れた唇で
ワインをしるセレブのように
私の愛は 愛と出会うまで
とても雄弁に愛を語っていた
出会ってしまった今では
私の愛は 日々寡黙に
沈みこんでゆく
霧が降り立つ夜明け前などは
特に深く
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つかみどころも味けもない向こうもすける薄皮の
日々というパイ生地と
バニラビーンズ抱いた甘く狂うカスタードの
ていねいにつみ重ねた
ミルフィーユ
追憶の銀色フォークつきたて
さくりと嘆く記憶を聞く
胸もやけるそれは
てっぺんに落とされた苺の
赤く酸っぱいうらぎりと
アッサムの香りおびた
木の葉時雨の午後
冷静な味わいとなり
飲み込んだその時
このものにとらわれていた時間は過ぎたのだと知り
哀しいほど前向きな
私を知ったのです
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秋 暮れて
ものさみしげに
ぶらさがった君は
柿の実の横顔
鳥のくちばしから
身をくねらせて
色づいたのに
枯れ枝を揺れるままに
君の望む手じゃないけれど
もいでもいいか
橙の頬におりた霜を
ぬぐってもいいか
指でつぶせるほど
あきらめに熟れた君が
いちょうの葉と画策して
飛び降りる
その前に
金色の外套は
いつかの西の空
名残おしい君の横顔
あかぎれのこの手が
ひっかくとしても
もいでもいいか
連れていってもいいか
眺めている僕の足元で
まろび行く木の葉が
冷たい人と
言う前に
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いつかの通い道にみあげる
ささやき揺れる笹の葉と
沿うように
歩く速さの川の流れを見つければ
緑の風のなか
不器用に折った笹舟の
消えてははねる
姿を思い出す
前を走る誰かの顔と
笹舟の行方は
雲の縁取り
侵食する空へとけた
はたして
いつかの笹舟のように
この一瞬も蒼穹のかけらになりはてるのだろう
十六夜の月のように
宇宙の影に吸い込まれていくあなたの頬の輪郭を
斜め後ろから目でたどり
今あなたを
これきりとばかりに
あなたを想う
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不純物を含んで涌きでる
疑問や悩み事の
大なり少なり
濃いなり淡いなりの
答えの所以
どこからきたかとおもってみれば
私から涌きでたところへと降り注いだものたちの
輪郭が溶け込む瞬間だったり
拡がる波紋の模様だったり
はねた一粒が透かすものだったり
私以外から訪れたものばかりに隠されていて
隣からはあなたが
終わりない不純物
あなたとふたり
手をつないだものの見方
もうあなたがいないと
だめとおもう
あなたがいなければ
溺れてしまおうとおもう
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あの夜空から
ひとつまたひとつ
散りゆくものさえ
この身をあたためる
むきだしの手や頬は
冷えてゆこうとも
足を埋めるそれが
僕が知る愛だった
僕の末端から
セラフが採った
赤い林檎の実
押しいただき抱いて
明日へ飛ぼう
加速をつけて
風きって
僕らをとりまく
事情は
疑惑は雨は
霧は風は逡巡は
銀河の彼方
目をつむるその一瞬
君の願いに
我が身を励まして
今僕は夜空をわたる
赤い流れ星