この橋の いくつもの切り傷は 研ぎ澄む夜の大きな鋏のせいだろう そして、この湾曲は 押さえつけるものと 支えようとするものとの せめぎあう冬だ 橋は告げた この冷たく遠いわたしを越えたなら あざやかな緑におおわれ 花々の狂い咲く五月はあるのだと― 揺れるあこがれが 素足になって、また歩みはじめるとき 星のない孤独者の夜は しずかに灯ってゆく おくれていた朝の光のように
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