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高級スプーン似の部屋


[517] ワンコインラバーズ
詩人:高級スプーン似 [投票][得票][編集]

うまれつき目立たない
モブキャラちっくなあの子
担任の先生だって
覚えてられない
黒髪メガネの地味め系女子

教室の隅
休憩中も寝たふりを続ける
幽霊みたいなクラスメイト
あの子と寝るには
ワンコイン
五百円あればいいって噂
真に受けて

放課後
まだ居眠りを続けるあの子
机の上にワンコイン
あくびをひとつ
五百円を受け取った
あの子のおでこには
カーディガンの袖口の跡

はにかみもせず
無表情に席を立つ彼女は
僕の手を引き
教室の外へ

西日差し込む
廊下を抜ける
階段を降りて
保健室に入るまで
誰ともすれ違うこともなく
誰もいない室内で
リボンを外す女の子

一糸纏わぬ姿
眼鏡を掛けていなくても
存在感は希薄なままで
白いベッドに誘われる

行為も淡泊そのもので
後にも先にも残らずに
一息抜いて終えたあと
静かに後始末をする彼女
シャツのボタンを留めながら
夢を見ていた

朝になれば
目は覚めたけど
心にはわだかまりを残し
気分は晴れない

誰とも仲良くせずに
うつ伏せのまま
いつの間にか消えていた
不登校になり
卒業式にも来なかった
あの子の笑顔
今になって知りたくなって

そもそも
あの噂は本当だったのか?

思い立って企画した同窓会
やって来たのは
久しぶりの面々と
今でも付き合いのある奴ら
そこに
あの子の姿は

向かいの席に座っている彼女は
あの頃よりも垢抜けていて
大学のサークルで出会った男と
結婚したらしく
幸せそうな笑み浮かべ
楽しげに
ウーロン茶を飲んでいる

「お酒は飲まないの?」って
何気なく訊いたら
彼女ははにかみながら言う

実はね、

僕はワンコインを置いて
店を出た

彼女はもう
あの子じゃなかった

あの子は最初から
どこにもいなかったのか

どうにもならないこの気持ち
僕は叫んだ
とにかく走った

そのあとすぐに
佐藤の野郎に呼び戻され
説教とジャーマンを受けて
三次会まで幹事を続けたんだけど

橋さんは終電前に帰りました







2014/08/06 (Wed)

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