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高級スプーン似の部屋


[567] 名もなき狂人のうた
詩人:高級スプーン似 [投票][編集]

有名な詩人が
頭に思い描いて
書かずに破り捨てた詩
百万光年先からなら
その時の表情くらいはわかるかな

いつか
これまでに生きてきた人たち
誰も彼もの心の機微も
宇宙のどこかに保存されていたとして
頁を捲るように過去に遡り
自由に閲覧できたなら
もう何も書かなくてもいいよなあ

言葉がなければ息もできない
もしくは死ぬ
症状が酷ければ
そんな人もいるかもしれない
言葉がなければ
現実から言い逃れることもできず
ただただ口を閉ざしたまま
震える拳を宙に叩きつけるだけ

誰かに読ませるために書いているのか
それすらもあやふやで
子どもがはじめて画用紙に
クレヨンで書いたらくがき
みたいに人に伝わりにくいそれ
うまれたての感情を
昔ながらの心象風景を
誰に伝えるでもなく
思い思いに想いを描く行為
その姿
選ばれた未来の先では
好き好んで骨を折る狂人だと
ナンセンスだと肩を竦められても
此方人等
死に物狂いなんでい
そう言われたら
仕方ないよな

顔も知らない人の詩を読むこと
百万光年離れなくても
少しはわかるその顔つき
どこまで正確に読み取れるかは
わからない
けれど
あなたの詩を読まなければ
こんな風に
ぼくの心が動かされることもなかった
どんな風に?

それはまた未来の話






2016/05/26 (Thu)

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