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浮浪霊の部屋


[25] 鬼の種を受けた人の子の譚
詩人:浮浪霊 [投票][編集]


そいつは果たして鬼の子だった
生まれるや産婆を食い殺し、ゲラゲラ笑いながら逃げ回る。家中がパニックだ

屋敷を覆う恐慌の中 赤子の種親を想って唸る 
全く あのロクデナシの化け物め 責任無しの放蕩親父め
こんな餓鬼を、俺に如何しろって言うんだ
畜生が 胎親は俺だ 俺が如何にかしなければ
俺は怒鳴った。吼え立てた。

血をぶちまけろ 呪(シュ)を口ずさめ 鬨の声絶やす勿れ!

武器を持て 追い回せ 眠り込むまで苛め抜け! 

きりきり動け 蛇の道は蛇 あの種親(ロクデナシ)の指示の儘

するとどうだ 屋敷を散々追い回されて
腐った血の中 ゴロゴロ転げ 
挙句赤子は鬼門の子部屋へ 飛び込んだ。

さあ今だ! 鉄扉を閉ざせ 錠をしろ お札を残らず張り付くせ!
…… 恐る恐る扉に耳を這わすと、鬼児が寝息を上げている。

全て終わった ほっと息をつく
くたくたに疲れ果て、廊下に座り込んで一服
鬼児のお産は軽いというが 何とまあ…… 
結局 何処に孕んだのかも何処から産んだのかもはっきりしなかった

あの宿六は言った 産場には胎親の月のものをぶちまけろと
やれやれだ 親以外のそれでも代わりにはなったらしいと苦々しく思う
(男の俺にそんなものがあるかよと驚いて言った俺に 
 あいつは俺よりもっと驚いて見せたのを憶えてる 
 あいつは恋だ何だと騒いだくせに俺の性別さえ分かっていなかったのだ!)

全く あの産婆には 気の毒なことをしたものだ

気を取り直す
煙草を揉み消す
家人共に呼び掛ける

おい お前ら 祝え 
我が家の長男は 鬼の子だ!
精精鬼に相応しい凄まじい名を考えてやろうじゃないか

2010/03/15 (Mon)

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