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八朔の部屋


[19] 内側のスケッチ
詩人:八朔 [投票][編集]

私が回転した記録である
気持ちの推移や擦り切れた痕を
写真のように永遠に保存して
それらに表された
色や匂いやまろみや雫を
いかに確かに絵に描くように
ひとつの世界を各々の世界と換算して
忠実に叙情的に著すことが
私の望みなのです

絵筆は
突き詰めれば絵筆ではなく
声は
歌にさえ必要なく
追い求めたその先にあるのは
ありふれたものを
ありふれたものと言い放つことのできる
小高い丘なのです

私を描く際に必要なのは
胃とか、胆嚢とか、声帯ではなく
匂いや、肌の色や、嗜好ではなく
私の周りにありながら
私の内部に流れている
音楽のメロディなのです

それは流れ続けながらも
まさにCDのように
(あるいはそれを流すスピーカー)
絶え間無く回り続け
傷がついたときは
それは同じ部分を繰り返し
たまに隙間を縫うように
休息が入るのです

媒体を必要とする
いわゆるひとつの触媒として
言葉や声や匂いや粘土があり
私はその奥で
ひたすら静かに回り続ける
一枚のCDなのです
(音は重なり 旋律はひとつ)

ひとつの曲を終えたとき
その曲を聞いた人々が
思想や感覚や空気や
周りを包む見えないもの
(見ようと目を凝らす対象)
それらへの興味が
ほんの少しでも沸いたり
それらの形状の想像が
ほんの少しでも変われば
私はその存在に
悲しくない理由をつけることが
初めてできるのです

2007/03/08 (Thu)

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