詩人:ヒギシ | [投票][編集] |
夜中にふと目を覚ます
右腕が上に行っていて
血が通わず
動かない
もう一度眠ろうとするも
言い知れない恐怖に
背中から近寄られ
渋々左手で右腕を下ろす
どさりと
他人の腕のように
重く微動だにしない腕
何だこれは
眠気はどこかへ
消え去った
死んだ誰かに
眠っている間
右腕を掴まれて
引っ張られていたのかと
先刻の背中の恐怖と
再会する
まだ
いきたくはないので
しっかりとこの右腕を
左手で捕まえておかなければならない
このあと眠って
夢にでるのは誰であろう
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夕暮れ色の
貴女のその眼が
見つめていたのは
僕が買った
ネオンの夜景なんかじゃなく
街路樹の蕾だって
ちゃんと知っていた
貴女が耳を傾けていたのは
風のざわめきだとも
貴女が微笑んでいたのは
やっと飛び立った雛にだとも
ちゃんと知っていた
それでも僕が
貴女を掴んでいたのは
貴女がその細い指で
僕の袖を掴んでいたことを
ちゃんと知っていたから
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こんな時間にどこいくの
と問うた母に
煩いなぁほっといて
と姉
電話が鳴った後
夜中に飛び出した
風呂から出た母の
小粋な鼻歌は
心底わざとらしかった
涼みに出るフリをして
ベランダから下を
その目は覗いていた
珍しく携帯を
寝室へ持っていった
寝付けないらしい母は
またベランダへ出ていた
コーヒーを作るよ
帰ってくるまで
眠れないという口実が
欲しいでしょう
さぁこれを飲んで
言えばいい
眠れなくなった、と
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ある日ピエロが
遠くの人に少しだけ近付いて
一人ケタケタと笑ってみせた
遠くの人は不思議がった
それでもピエロが
余りに楽しそうに笑うので
自分もクスリと笑ってみせた
何日も二人で笑い続けて
ふと
遠くの人がピエロに近付こうと
ゆっくり歩み寄った
するとたちまちピエロは
全力疾走で消え去った
またある日ピエロが
今度は別の
遠くで笑っている人に
ほんの少しだけ近付き
ケタケタと笑ってみせる
遠くの人は
嬉しかったので
ピエロに走り寄った
ピエロは全力疾走で
消え去ろうとしたものの
遠くの人がまだついてくるので
三日三晩走り続けた
ピエロはぴたりと足を止め
諦め顔で振り返る
遠くの人は今や
近くの人になって
やっと追い付いたと
笑みをこぼした
近付かれては
遠ざかっていたピエロだったが
しつこい敵に出会ってしまった
近くの人の存在は思いのほか
居心地がよかったが
こんなに疲れるのは絶対もう嫌だと
ピエロは強く思った
今日もまた
素早さを増したピエロが
遠くでケタケタと笑っては
逃げ出している
二人でケタケタと笑っては
駆け出している
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ガタガタの
レンガの小道
立ち止まった僕の前に
颯爽と登場した白猫
痩せていたが
尾をピンと伸ばし
目を光らせて
こう言った
Are you HAPPY?
縦に振りかけた首を
少し傾げて
苦笑い
シロは
ヒゲを動かし
嬉しそうに
Oh,I'm HAPPY!
Yeah!
はしゃぎながら
ジャンプして
塀に上り損ね
向こう側から聞こえたのは
ウカレた調子の
゛Hu〜!゛
笑えたけど
自分も笑えたことに
気付いてみた
ボコボコの
レンガを歩くは
ウカレた調子の
スキップ野郎
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ガタガタと
窓に押し寄せる
強風
他に何も音が聞こえなくなる
目敏く見付けた
隙間に入り込んで来て
ピーピー喚かれた
御近所迷惑だよ風さん
隙間を無くせば良いのかと
窓を開け放った
一目散に
荒らしにきた奴
紙という紙が飛び回り
変な猫の置物は倒れた
落ち着け
風さん
そして自分
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わぁ
骸骨、何の用だ
用が無けりゃあ
骸骨は外出も許されないかね
そんな訳じゃ
無いけど
まぁ
用が無い訳でも
無いんだが
何なんだ一体
我が輩の愛する月が
欠けてしまったから
人間の魂を
貼り付けようかと
ガコッ
ガラガラ
何をするのかね
肋骨を組み立てるのに
どれだけ時間がかかると
馬鹿髑髏め
ふざけるなヨ
カチャカチャ
ふざけてなどいないヨ
髑髏はいつでも真剣さ
いいか
月が欠けたのは
満月だと明るすぎて
眠れないと俺が言ったから
アイツがああしてくれたんだ
おやそうだったか
じゃあ我が輩が
お前を寝かせれば
月は元通りなわけだ
そうだな
じゃあ眠れ
ほら
ギャア
うん
愛する月よ
さあ満ちろ
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一体どんな風にすれば
言葉が出てくるんだっけ
どんなに頑張ってみても
涙しか出てこないよ
一体どうすれば
言葉が出てくるんだった?
でてくるのは悔しさともどかしさ
ほんの少しの「help」の旗
近づかれると
全速力で逃げ出して
最初の位置に戻すんだよ
ラプンツェルの長い髪なんか
切ってしまえ
顔を会わせるのなんか
溜まった涙に写る自分と
餌を求めるだけのアイツで
もう十分だ
歌を聴いたって
曲が終われば残るのは静寂
散らかった部屋に
眠る場所もない
工事の音は
頭にドリルが刺さったように
耳をつんざく
自分の声さえ聞こえやしない
何件も続く広告メールに
誰からだろうと思う自分が
たまらなく馬鹿げていて
遠くの空へ放りました
一体どうすれば
美味しい紅茶を
飲めるんだった?
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落下途中の
白い花びら
掴んでみても
どうしようもなく
また手を放して
落下させる
剣を突きつけ
怖い顔で
脅してみても
微動だにせず
ニヤリと
微笑みやがるから
剣はしまって
首を絞めた
お前の顔が
どう歪むかと
首を絞めた
歪まない顔に
曇り無い顔に
力が抜けて
剣も落とした
お前は
掴んだ花びらを
手のひらに乗せ
吹きつけた
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冷たい鉄格子の向こう
躓いて立ち上がれない貴方
手を貸すことは出来そうにありませぬが
どうか私のこの羽を
ちぎって持って行って下さい
ここから出られない私の代わりに
私の羽であの空へ
飛んで下さい
冷たい鉄格子の向こう
自ら作った檻から出られない貴女
手の代わりに羽を差し出す
どうかそんなこと言わないで
貴女も一緒に来て下さい
僕独りでは飛べません
上を向く力も無いのです
空とはどんな
ものですか
冷たい鉄格子の隙間
冷えた手を取り合う