詩人:夕凪 | [投票][編集] |
キャスケットしか
被らない私が
一つだけ持ってる
ポークパイハット ‥
あなたと歩いた
高架下のショップで
あなたが私の頭に
ちょこんと乗せて
似合うと笑って
買ってくれたもの ‥
破天荒なあなたは
いつも皆から変り者と
笑われていたけど
それを楽しそうに
受け入れるから
不思議とあなたは
人気者だった ‥
一度だけあなたが
連れていってくれた
裏通りのジャズ・バー
カラン、と扉を潜ると
タバコの煙と
お酒の匂いが充満する
気だるく陽気な世界が
そこにはあった ‥
あなたはタバコも
お酒も呑まない
それでもこの空間が
一番好きだと言って
奥のソファーに座って
鼻歌を歌っていた ‥
最初緊張していた私も
次第にその空間の
自由な揺らぎに
心地好さを覚えて
気付けばあなたと同じ
顔して笑っていた
店を出る間際
私の顔を覗き込んで
にっこり笑うと
あなたは言った
─ どこに居たって
本当の自由は
自分の中にある
そういうものさ ─‥
それから程なくして
あなたは居なくなった
そのうち帰ってくるよ
皆は気楽にそう笑った
私は、何故だかもう
あなたに逢えない
そんな気がしていた ‥
何年もの歳月が流れ
相変わらずあなたは
行方知れずのまま
あの店もいつの間にか
流行の音楽が流れる
ガールズ・バーに
変わっていた ‥
ポークパイなんて
私には似合わない ‥
そう言って一度も
被ることのなかった
あなたからの
たった一つの贈り物を
何年か越しに初めて
鏡の前で被ってみた ‥
似合わないと思っていた
その贈り物は
驚くほど私に馴染んで
そこに映る私は
見た事のない表情で
凛と立っていた ‥
あなたに見えていた
自由の全部は
今もまだ見えないけれど
ポークパイを被って
今度また
あの高架下を歩く私は
今よりずっと
自由を感じられる ‥
そんな気がした ─‥。
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親や先生に内緒で
校区外の海へと
冒険する計画
片道30分の道のりに
胸が高鳴って
4人だけの秘密で
ペダルをこいだ ‥
国道添いは危ないから
そう言って
見慣れない民家の間を
試行錯誤で
走り抜けた ─‥
次第に近付く潮の香り
あの信号辺りで
左に曲がったら
きっともう着くよ
エリちゃんの予想は
いつも自信に満ちて
外れがない
釣具屋さんの信号まで
やってきたら
目の前に大きな海が
広がった ‥
さっきまで
少し不安げだった
年下のアヤちゃんも
その景色に
目を輝かせて笑った
自転車を止めて
駆け寄ると
遠浅の静かな波が
太陽の光に
キラキラ揺れながら
打ち寄せる ‥
何をするでもなく
波に近付いては
離れてみたり
足首に絡みつく海水を
蹴り上げて
ずぶ濡れになったり ‥
4人で集めた貝殻を
交換し合って
砂浜に並んで座った ‥
私達はまだ子供で
水平線の向こうも
知らなかったけれど
それでも4人で
世界を手に入れた
そんな気がしてた ‥
帰り道優子ちゃんは
落ちてた空き瓶に
砂と貝殻を入れて
自転車のかごに
大事そうに乗せていた
私の記念のそれは
スカートのポッケで
揺れていた ‥
大人になった今は
車で10分の
見慣れた町並みと海
缶コーヒー片手に
少し離れたベンチから
その海を眺めてる ‥
水平線の向こうにある
大陸も
全部知っているけれど
あの頃よりも
なぜが世界は小さくて
私は俯き笑った ‥
太陽は西に傾いて
やがて海は
小さな波音だけ残して
夜に見えなくなる ‥
空き缶を手に
立ち上がり
背を向け歩き出した瞬間
波音のずっと
向こうの方から
4人の笑い声が
聞こえた気がした ─‥
家に帰ったら
あの時の貝殻を
探してみようか ‥
そんな事を考えて
振り向いた海は
あの時と同じ
潮の香りで
満ち溢れていた ─‥。
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まだ 傷痕は
うずくかい ‥?
さっきからずっと
月を睨んでさ ‥
ねぇ 少し
話さないかい ?
幸せの話なんかを
聞かせたいんだ ‥
一人の夜は
やたら長いものさ
こっちへ来て
暖まるといい ‥
この手は 君を
抱き締めたいけど
今夜は ただ
そばにいるよ ‥
君に優しい子守唄
歌ってあげる
小さな寝息が
聞こえるまで
ただ そばにいて
歌ってあげるよ ─‥。
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どこかで誰かが
爪弾くギターに
切ない気持ち
持たれかけて
人知れず
瞳を潤ませてる ‥
あぁ ‥
なんて優しい
あぁ ‥
なんて なんて ‥
とれかけてた
心の瘡蓋が
ポロッと落ちた ‥
頑なに結んでた
靴ひもまでが
スルッと解けた ‥
歩き出せるかな ‥
靴ひもを
程よく結び直すと
月明かり そっと
降りてきて
足元を照らした ‥
どこかで誰かが
爪弾くギターに
今夜はずっと
持たれかかって
夜風に涙を
さらしてる ‥
夜の闇が終わる頃
やがてギターは
鳴き止むだろう ‥
きっと もう
その音は
聴こえないの
だろう ─‥。
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過去を
現在形にはしないし
現在を
未来形にもしない ─‥
もちろん未来を
妄想癖で
塗り潰したりしない
過去は
過ぎ去った時間で
しかなく
現在は
今目の前にある世界
そして未来は
未だ産まれていない
可能性の胎児 ‥
それ以外の
何者でも
ないのだから ─‥。
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右眼から
流れ落ちるは
哀しみ ‥
左眼から
零れ落ちるは
喜び ‥
片方ずつの 涙 ‥
今 両方から
落ちた涙は
一つに滲んで
愛を伝えた ─‥。
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私は昔から
泣き虫だった ‥
らしい
そんな私が
人前で
泣かなくなった
理由は
ひとつだけ ‥
私は今でも
泣き虫だけど
それを
知っているのは
私だけ 。
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「ネェネ !」
一生懸命突進してくる
可愛い甥っ子 。
二年前 ‥
真冬の寒い朝方に
ペットボトル一本分
そんな小さな体で
産まれてきた ‥
保育器の中で
身体中を管で繋がれ
それでも
君から溢れる生命力に
胸が一杯になって
涙が止まらなかった ‥
命を授かった瞬間から
人は
生きたくて生きたくて
堪らないんだ ‥て
生きることは
素晴らしいんだって
君が身を持って
教えてくれたね ‥
ゆっくりゆっくりで
いいんだよ ‥
君らしいペースで
泣いて笑って
一歩一歩成長して
いけばいい ‥
ネェネはずっと
見守ってる
応援してるよ ‥
タケル ‥
ネェネの甥っ子に
産まれてきてくれて
ありがとう ‥
ネェネに
大切な事を教えてくれて
ありがとう ‥
ネェネは
タケルが
大好きだよ ─‥。