詩人:番犬 | [投票][得票][編集] |
煤けた天井に薄い光
髭を蓄えたマスターは寡黙
几帳面に並べられたバックバーの酒は
おそらくは彼の生涯の財産
年代物のジュークボックスから
アーノルド・ケイモンズ
彼のサックスは涙の結晶のように
不安定な呼吸と深遠さを覗かせる
テーブルにはアイレイモルトを
注いだオールドファッション・グラス
隣にはよく見掛けるプッタネスカ
彼女の指輪は今日も眠らない
今夜分のクリスタルをポケットに忍ばせ
相手を選ぶ瞳は高級さを物語るが
ミモザを飲み干したその唇は泣いていた
赤いドレスの裾に落ちない泥の跡
それは彼女の生き様そのもの
穴の空いた俺の革靴とよく似ている
しかし交差する事はないだろう
永遠の平行線がここにある
少しばかりの会話もなければ
不必要な感情すらもない
ただ流れて消える時を
冷えたグラスの水滴に預け
沈黙の暗さを味わう