詩人:noa | [投票][編集] |
子宮の奥の方で貴方までもをまるごと。呑み込んでしまいたいとさえ思う夜、
月の放つ引力でせかいは歪みをとめられない。そう、ちょうど広がってゆく波紋の様に。
打ち付ける腰がひどく単調な動きしかしないのに飽々して、男の体を無理矢理引き剥がすとマッチを探した。
唇から肺までのわずかな距離、ただの煙を往復させているそれだけの行為。
あぁ、これは。男の腰つきと何ら変わらないな。
そう思うと口の端がゆるく歪んだ。
たとえばあれ、が貴方なら
打ち抜かれているの、がわたしなら
もうせかいなんてどうだっていいのに。
貴方がわたしを呑み込むのだって、わたしが貴方を呑み込むのだって、どちらでも構わないのに。
ねぇ、つづきをしよう?
この体に穴が開きつづけるのをとめられないわたしは、埋められない穴を、くだらない切那にすりよる。
歪んでいくのは、せかいじゃなくてわたしだけだ。
月の満ち引きで狂うのも、最後の五つを数えるのも。
支配しているつもりになろうとなるまいと、支配されてゆく、わたし。
手を引かれて、振りほどいて、手を引かれ、て、繰り返しを繰り返す。
何かを囁きながら腰を振り続ける男に覆われてわたしは、ほんの一瞬、願うように描いた死にたくなる位に青い空を薙ぎ払って、
嘘みたいに腕をやさしく回しては、
何を思うでもなく背中をぎゅっと抱いてみた。
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酸素の泡を舐めとっては吐き出して、そんな繰り返しで繋げる汚い鼓動。
じゅくじゅく、と溢れた膿が固まって、朝焼けも濁って映る両の目玉。
頬張った両親を味わうことなく飲み込もうとしている最中で、唇の端から這い出て来て【i love you】と告げる母の右手を噛み砕く。
踏みつけた、恋人の顔。
昨日わたしを抱きながら、彼もだらしなく母と同じ呪文を唱えた。
膨れた体を引きずってわたしは海を探す
誰にも傷つけられることなく傷つけ続けた体を引きずっては、海を探す
母なる海などと誰が言った
見上げた淀んだ空に、さっき噛みちぎった【i love you】を吐き出すと、それはそのまま少し歪んで墜ちてきた、
愛しい血が固まって、巧く表情を作れないわたしの頬へ。
あ、あ
あ
へにゃへにゃな顔をして、
わたしは泣いた。
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頼りなく宙に揺れていたのは、願いの蔦で
これはわたしの ささやかな祈り。
関節がもう随分と前から溶けてしまったかのように、脚は歩く感覚をわたしに教えてはくれなくなった。
渇いて渇いて張り付いた喉の奥から絞り出した声だって、呼ぶ名前をもうひとつも覚えてはいなかった。
とりあえず隣にいたきみの手を握ってみたところで、伝わる温度は欠片だって無かった、
あぁ そうじゃない、冷えきって滞っているのはわたしの血液だったんだ。
わたしは知っている、太陽が燃えて染める空の色を
わたしは知っている、川の水面に映る木々の揺らぎと風のかたち
わたしは知っている、ひとつ息をつくように流れていく星の軌道
だからこれは
ささやかな最期の願い
音も立てずにめりこんでゆく蔦、わたしの首は
ごとり。と落ちて全てを投げて逃げるのだろうか
最期のワルツの果てにもし、もし蔦が千切れたなら、感覚の名前をひとつずつ、また最初から覚え直してみるのもいい。
すべてはきっと、単純なことでしかないのなら
からっぽのいのちを、わたしはそっと天秤に。
指先を、爪先を、ぶらりと垂らした あとのはなし。