詩人:秋庭 朔 | [投票][編集] |
何度も深呼吸を
くり返し、
決意しては
二の足を踏む。
膝が小刻みに震えてる。
怖くなんかない。
これは終りではなく
再生だから。
記憶は途切れても
命は引き継がれる。
次に吹く風の力を
借りよう。
呼吸を整え、全身を
センサーにして、
風の到来を待った。
さわさわと
仲間たちが騒めく。
大波のように
迫り来る風の兆し。
自分の鼓動が
波打ち高鳴る。
時は満ちた。
今だ!
緊張感で
強張った顔を
紅潮させながら
カエデはひらりと
空を切って…
飛んだ。
そして、
初めての地上に
はらりと舞い降りた。
ベンチに腰掛け
本を読んでいた少年が
ふと顔を上げ、
立ち上がると
風の吹き溜まりに
身を寄せ合う紅葉の中の
一枚を拾い上げ、
読みさしの文庫本に
大切そうに挟み込んだ。
風が吹き渡り
落ち葉がかさこそ
声を挙げていた。