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望月 ゆきの部屋


[262] ひよこ豆
詩人:望月 ゆき [投票][編集]

「あれだけは、あたし大嫌いだから。」
ヨシ君のお母さんはダイニングで
ひよこ豆をクチャクチャやりながら
ぐにゃりと頬をゆがめた
さっきからの話の流れだと
茶飲み話の主役は蚊のようだ
あれはね、ホントあたし嫌いなのよ
パチンと両手でつぶして、
それで終わりじゃあ、ないのよ
親指と人差し指ではさんで持って
足を一本ずつ抜いてやるの
それからゴミ箱に捨てるのよ、
あたしホント大嫌いだから
ぼくとヨシ君は背を向けて
コントローラーをにぎる
両手の親指を機敏に狭い範囲で行き来させる
ライフはあと3つ
「大嫌いといえばあたしはアレね。」
2軒隣の坂口さんのおばさんはたたみかける
主役の座はどうやらゴキブリが奪取したらしい
ひよこ豆は残りすくな
あれはね、ホントあたし嫌いなのよ
夜中にカサコソって音がしておだいどこに行くと
見つけちゃってねぇ
すかさずスリッパでバシッ、よ
で、トイレに流しちゃう
あ、ケアレスミス
ぼくのライフはあと2つになった
「あたしなんて。」
その上からさらにたたみかけたのは
ぼくのお母さんだった
親指は死に物狂いだ
主役はそのままらしい
ひよこ豆はなくなった
あたしも、ホント大嫌いなのよ
あたしもね、夜中に喉がかわいて
おだいどこにおりてくると、たまにカサカサ音がして
そうしてたいてい見つけちゃうの
で、あたしもスリッパでバシッ、よ
親指はもはや惰性で上下左右
ひよこ豆は消化される
でね、その死骸を持って庭に出るの
どんなに真夜中でもよ
でね、マッチで火をつけて、焼くのよ
そうしないと気がすまないの、ふふふ
体から炎が出た
親指はちぎれてなくなった
ぼくのライフは、あと1つ



2004/08/07 (Sat)

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