詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
小さな頃
引っ込み思案なぼくに、と
ママが与えてくれた図鑑は
表紙をひらくたんびに
こんにちは
こんにちは
と
語りかけたので
ぼくはひとりぼっちではなかった
ぼくの図鑑は
それからも毎日
こんにちは
こんにちは
と
ひっきりなしに語りかけるので
いつの頃からかぼくは
誰かが
ぼくの心とか
そういう部分を
コンコンとノックするたんびに
こんにちは
こんにちは
と
たたみかけるように
声を発しながら
ずんずんと近づいては
深く深く
入りこんでゆくすべを
身につけていた
たいていはそのうちに
さようなら
さようなら
と
深い深いところで
耳をすますぼくに
その人の声が
とどいて
それっきりとぎれたりするのだけど
そんなときぼくは
さようなら
さようなら
とか、
いかないで
いかないで
とか、
って
語るすべを
もうずっと持っていないので
ときどきぼくは
ひとりぼっちになって
まだぼくは
図鑑を手放せないでいる