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はちざえもんの部屋  〜 新着順表示 〜


[128] 死ぬかとおもった
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死ぬかとおもった。
死ぬかもしれないとおもって、
死ぬほどこわかった。
死にたくない、とおもった。


ずっとくらかったから、なにも見えなかった。
そのうち暗闇がはれて、そとに引きずりだされた。

目が見えてよかった。
うでが繋がっててよかった。
からだが動いてよかった。
生きててよかった。


いろいろ、なくした、けど、
生きててよかった。

2011/04/08 (Fri)

[127] 「母」
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少年は手をひかれ
夏の匂いを嗅いでいた

不意に口走るメロディーの欠片
女はそれきり口をきこうとはしなかった
少年が何度、呼びかけても
口をきこうとはしなかった

やがて振りほどかれた手が
虚しく、その影を追う

その日、少年は小さな胸に宿った憎しみを
刻みつけるように何度も呟いた。


夏の日差しが
一瞬だけ、思考を遮った。

遠ざかる面影
その日、少年は自身の運命が
音を立てて変化した事を知った。

世界はモノクロに少年の心を覆い、
やがて灰色の空が、遠く、遠くへ伸びていく

その日、少年はその小さな胸の奥底に
憎しみだけを何度も何度も刻みつけた



「遠ざかる母の面影」
その光景は、
大事な場面で
何度も彼の足をすくう

2010/01/30 (Sat)

[126] 赤い球体
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太陽が昇って 安らかな腐敗が始まる。
そこから二人の生活が始まった。


生があって、その対照としての死があって、
その間にあるのは、明らかな断絶。

時折、覗かせる赤い球体
誰もが皆、それを太陽と呼ぶ。
漠然と皆、それを太陽だと信じている。



そして今日も日が昇る
地平から覗く赤い球体を
僕は彼女と眺めてた

「影が遠くに伸びてって、家の中にまで浸食する!」
「よく見て!あれは太陽なんかじゃない!」

パニックに陥った彼女は
ベランダから身を投げた


そしてまた一人きり



赤い球体が輝きを増す
それが太陽ではないと気が付いた時、
僕もまたベランダから身を投げた。

それが正しい反応だと確信をもったから

2010/01/05 (Tue)

[125] happyend
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私が死んだのは五年前の事だった。
それはそれは鮮やかな季節で、
花は咲き誇り
全てが輝いて見えた。

愛する人は私の手を握り、「ずっと一緒だね」と微笑んだ。
私はと言えば季節の彩りの中で
幸せとは何であるかを知った気がしてた。

信号が青に変わると
私は繋いでた手を離して
前に、踏み出した。

happyend

なんとなく口ずさむ、あの歌。
見上げていたんだ。
綺麗な空や新緑の若葉、その総体としての風にそよぐ街路樹を。
私の顔を覗き込む貴方の悲しげな表情が
邪魔にさえ思えた、そんな美しい季節だった。
少なくともその表情は貴方には似合わない。
そう声をかけようとしたけど、
声にならなかった。


それからずっと動けない。
「あの信号が変わったら…」
そうしているうちに季節が過ぎて
雨が降って、信号が赤に変わった。

それでも私は動けない。
貴方の笑顔が思い出せない。
たぶん、それだけの事だと思う。
私がここを動けない理由。

2009/06/28 (Sun)

[124] 東京
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東京の空は狭い、と言う。
或いは四角だ、なんて事も聞く。

実際に見上げてみると、なるほど、言われてみればそんな気もするが、
ことさらに強調する程のものではないようにも思われる。


きっと、その言葉、それ自体が
寂しさや孤独感の比喩表現、みたいなものなのだ。
ただそんな詩的な感傷に浸りたいだけなのだ。

五月、晴れ、少し暑い。でもジャケットは脱がない。
休日、午後、少し過ぎ。休日のありがたみが身に沁みる。


久々に会う君に
なにを話そうか、さっきまでそんな思いばかりが渦巻いて
それが馬鹿に照れ臭く、だったらいっそ何も考えずに臨んでやれ、と
誰かにいい訳でもするように
君の到着を待ちわびる。

そう、待ちわびている。
気にしないようにと意識するほど、
僕は目の端でもって
目の前で行きかう人々の群れの中に
君の面影を探している。

故郷を離れるという事、それは僕自身が取捨選択した人生で、
寂しさをまるで感じない、と言えば嘘になる。
でもさ、今は毎日に必死で挑んでる。
感傷に浸る時間はそれほどない。

君と何を話そう?話したい事がたくさんあって、でも何を話せば良いのかわからない。


手を振る君の姿が大きくなってきた。
僕も思わず手を掲げ、でもそれが恥ずかしくてすぐ頭を掻いた。
時間は人を変える、なんてよく言われるけれど、
僕はその言葉も信じない。

根拠なんてない。
探せばあるかもしれないが、
今はどうでもいい。


「東京の空は狭いって言うけどさ…」


見上げればその殆どが空で、その他 鳥が少し飛んでいた。

2009/05/18 (Mon)

[123] 生きる事の意味
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そんな事よりも僕は
今夜の晩飯を考える
出るはずもない答えを探すのは
この上もない徒労だからだ

2009/01/15 (Thu)

[121] 犯行直前
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世界が終るまでの数時間で、僕はまずコーヒーを啜る。
それからお気に入りのパンを朝食に、お馴染みのニュース番組。

繰り返される日常が、時に狂気に変わるのを、僕は知っている。

それからお気に入りのジーパンに、黒のジャケット。
バッグに詰め込む「ライ麦畑で捕まえて」これだけは欠かせない。

繰り返される日常は、時に嫌悪感を抱かせる事がある。

ドアを開けば朝の空気が、僕の鼻腔いっぱいに広がる。
それすら世界の終りの兆候なのだと、妙に納得して、電車に乗り込む。

繰り返される日常に、気が付いてしまった瞬間、僕は決意した。


何も見たくない、何も聞きたくない。
聴覚をイヤホンで塞ぎ、視覚を薄ボケた伊達メガネで遠ざける。

「認めたくないものばかりが、楽しげに街を彩り、世界を踏みにじるんだ!
掌から砂が零れ落ちていくのを、ただ眺めていろというのか!」


規則的に揺れる電車の中では、毎日がルーチンワーク。
安寧を求めれば、これも心地良いものなのかも知れない。
それでも、世界が終るのは変えようがない真実なのだ。
そうだ、僕が終わらせる世界は、すぐそこにあるんだ。


中指を立てる。何も変わらない。


あと、もう少し、
丘の上の雲を 掴みかけている。
僕が終わらせる世界が、すぐそこまで来ているんだ。

2008/10/17 (Fri)

[120] 潮騒
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猫がうるさい。
秋風と潮騒。
それは起きぬけの午後の日常。

餌を与えて、頭を撫でる
猫、あいつは侮蔑に満ちた表情で
ただ「みゃあ」と鳴いた

「お前もか」と僕は笑う。



教室を支配する、
嘘と欺瞞と没個性。
気に入らないから、ガラスを叩き割って回った。
腫れ物に触るように、遠巻きに眺めてる
「気狂い」と言われて、それは褒め言葉だ、と心の中で叫んでた。

談笑と嘲笑、安易な肯定、内実は全否定
それらすべてが気に障る。

もう息は上がっている。
手持無沙汰でうわの空、
教室の端っこで眺めてた変な雲。

2010/01/14 (Thu)

[117] ひとときの中で
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水の音に包まれて 羊水の中を泳ぐような 感覚に溺れてる
温かな体温 赤みを帯びた頬 白く、しなやかな指先
そういった温かさ 血の通った優しさに 僕は溺れているのだろう
遠く幼い頃に感じた 何者にも変えがたい存在を 君の中に投影している


回る回る 意味も無く回る その意味を知る事が 不幸でしかなかったとしても
柔らかな肌を枕に 少年のように 夢を語る やがて疲れて その優しさにまどろんでいる

それは深海で息づくように 深く深く 熱を放つ ぬくもりの中で 呼吸を始める

2008/06/22 (Sun)

[116] 躍動
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三秒半のイメージを大切にして
踏み切る右足から、体全体の躍動を意識して
空の青さと漂う雲が近づいた、そんな気がした宙の時間

ハードルを飛び越える、その一瞬を意識して。
その躍動を意識して。

2008/04/16 (Wed)
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