詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
小鳥と煙
野にも森に春がやってきた。
小鳥は嬉しくて旅に出た。
空は青く、風は心地よく
小鳥は春を心行くまで楽しんだ。
すると大きな煙突があり
煙にむせて小鳥は苦しくなった。
小鳥は煙突に聞いた。
「どうして煙を吐いているのですか。
こんなに空が青いのに。
こんなに風が気持ちいいのに。」
煙突は答えた。
「私には灰色の空しか見えません。
私には熱風しか感じることができません。
こらえきれない悲しみを
煙と一緒に吐き出しているのです。
こらえきれない憤りを
煙と一緒に吐き出しているのです。」
小鳥はしばらく煙突に佇んだ。
それから再び旅立った。
小鳥にとって煙は
もうさっきまでの煙ではなくなった。
小鳥はほんの少し
もうさっきまでの小鳥ではなくなった。