詩人:番犬
たとえばの話
100個ほどの笹の舟を編んで
近所の川に浮かべるんだ
大きさはなるべく同じで頼む
舟主として蟻を一匹乗せよう
現実的には蟻はすぐに逃げるので
これは不可能な誘いなのだが
これはたとえばの話であるから
あまり気にせずに想像してほしい
笹の舟たちは同時に放ってくれ
そうだ
遅れやフライングがないように
慎重かつ平等なスタートでいこう
川面が光の粒子を反射
高い所から低い所へ
水が落ちる透明な音だけが響く
笹の舟たちはゆっくりと動く
蟻はじっと前を見つめてる
何艘かの舟は転覆し始めたが
上手く流れに乗った舟は止まらない
だが
その数は絶対的に少ないのだ
99個の笹の舟は川底に沈み
最後の最後に残った一つの舟の
小さな主は何を思うだろう
運命に選ばれた幸運を喜ぶのか
誰もいなくなった孤独さを嘆くのか
人間はどうだろうか
俺は…そうだな…
おそらく後者だ