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詩人:右色
(私は少年に尋ねた)
うん、僕はね
いつだって単純でいたいんだ
複雑なことを言うつもりはないし
言いたくない
だから
名前の無いものに名前をつけて
名前しか無いものを文章にするんだ
(少年は続けて語る)
今まで、『嬉しい』には、それぞれ三百六十七個の名前を
『楽しい』は、四千と六の名前を付けたんだ
名前を付け始めたのは
もちろん
この旅に出てからなのだけど
やっぱり
一つとして
同じ『嬉しい』も『楽しい』も無かったよ
(少年はその小さな体には不釣合いな程大きなカバンから、何冊もの古びたノートを出しては嬉しそうに語り続ける)
僕はね
言葉を探しているんだ
名前を付けるため
文章を綴るため
いつだって
一番単純な言葉で
僕の感じたことを伝えるためにね
(去り際に聞いてみた、いつまで旅を続けるのか、と)
そうだね
きっと僕が大人になるまでだよ
僕が大人となって
僕の感じたことを全部
話したいと思える相手と出会って
一生を掛けても
終わらない話を始めたら
僕の旅は終わる
でもそれは
きっと
僕の旅の終わりであって
僕とまだ見ぬ誰かとの旅の始まり、なのでしょう
(そう言って少年は私の元から去って行った
少年は今日も歩いている
言葉を探しながら
名前を付けながら
まるで
唄っているかのように
ふらふら
ゆらゆら、と