詩人:黒夢
『好きです』
口にするだけで、まだ胸が痛む。
思い出だって関係だって
会えなくなったと知った時、忘れたつもりでいた。
人伝に話を聞くだけで、その名を口にするだけで
蘇る、懐かしい思い出。
脳裏をよぎる、愛しい面影。
『元気ですか?』
『新しい生活はどうですか?』
『まだ私の事、覚えてくれていますか?』
忘れたつもりで蓋をした、哀しく安堵する想い。
想うだけで満たされていたあの日。
話をしただけで喜んだあの時。
今は互いの距離がどれだけ遠いかさえも
分からなくなってしまった。
募る想いにひたすら気付かないフリをしている。
怖いから。
隠した想いに気づいてしまうのが。
隠し続けたい。
駄目になってしまいそうなんだ。
このまま君を忘れたフリを続けたら。
君に好きだと伝えたい。
消える事ない想いを消そうとする心と
それを拒もうとする、矛盾した心。
思い出の中の君の笑顔でさえ
複雑な心情に邪魔されて
ぼやけて見えるよ。