詩人:中村真生子
山道を登って下り
いよいよ山に分け入る。
前日の雨が染み込んだ
ふわふわの森を歩く。
パイプを連ねた細い橋を渡り
少し行くと
木々がまばらになった場所があった。
江戸から明治にかけて
全盛を誇った奥日野のたたらの一つ
都合山(つごうやま)たたら跡。
炉の跡、砂鉄の洗い場跡、
鍛冶場跡、金屋子神社跡…。
建物があった場所は
窪地としてのみ姿をとどめ
今はそれも
コケやシダのすみかとなっている。
説明や立札がなければ
きっと気遣いに違いない。
けれど
ひっそりとした森で
往時の活気とにぎわいを感じたのは
私だけでないに違にない。