詩人:EASY
観念への膨大なメモ書きが始まる
生まれた瞬間に手渡された
このノートは
今や数え切れないほどの数になり
僕の部屋に山の様に積まれている
書き直したい所は山ほどあるが
山ほどのノートの中から
それを探すのは
ほぼ不可能であり
見つけた所で
この漆黒のペンで書かれた文字を
消すのは至難の技だ
最後の手段として
僕は何度も
この部屋から出て行く事を試みたが
僕の全てを捨ててしまう様な気がして
その一歩が踏み出せない
僕はその間も
何かに取り憑かれたかの様に
メモ書きをしている
外の様子は気になるが
山の様なノートは
窓さえも覆い隠す
時々インターホーン越しに
外の人との会話をするが
インチキなセールスや
怪しい宗教の勧誘にしか聞こえない
その会話さえ
この山の様なノートから抜粋してる
僕の危うさが
そうさせているのだろう
僕の部屋にはテレビがあり
メモ書きのテクニックを教える番組が
繰り返し放送されている
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そう言い放つ目は
瞳とは言い難く
必ず水平よりは少し
上を見ていて
目が合いそうで合わないのだ
僕は一度
それを注文したが
それは
驚くほど精巧な地図の描写で
目的地を設定するだけのものであった
それすら僕は
メモをするに過ぎないのだ
そしてそれは
いつかこの部屋を出るまで
続いて行くのだ
いつかは必ず
この部屋から出て行く
やって来たからには
出て行く日が必ず来るのだ
僕が僕であるが為の
山の様なノートを後にして
僕はこの部屋を後にする
そして
互いに
ノートでしか見たことのない
君に会いに
あの約束の場所へ
向かうのだ