詩人:Cong
過去数十年に一度の酷暑を経験した関東地方
茹だる暑さにこの国の人たちがうんざりしていた夏
スポーツドリンクの人工甘味料の単一な甘さに飽きるのと同様に
ませた仕草や声や接触 それらを演じて見せてくる人たちにいよいよ鼻白んで来た頃
僕は知りもしない過去数十年の酷暑よりもっと暑く 刺激的で
卸したての本の一頁の香りのような
荒涼とした大地に染む湧き水のような
なんとも名状し難い爽快な衝動を鼻先から指先へ迸るのを感じた
煩い目覚ましの音も 無駄に広大でめぼしい建物ひとつ無い通学路も
汗にまみれて溜息溢れる朝練も 欠伸のリレーの続く四限目も
この淡い予感に満たされて 爾来唐突に色鮮やかになった
僕の日常を劇的に変えたその第六感的とも言える発明のエッセンスは
時に30インチもない距離に接近して 時にすっかり靄のカーテンの裏側へと姿をくらます
そんな高層ビルの赤色灯の明滅にも似た存在に
僕は恍惚とし 正体を失い 翻弄される
これを幸福と言うのか
これが煩悶と言うものか
なんだか申し訳ない気持ちになるけれど
文月のそよ風に乗せられたその予感こそが本物で
これまでは児戯であり 擬似であり
紺碧のインクをこぼした夏の空によって齎された
これがきっと僕の初恋だ