詩人:中村真生子
山を離れた石は
勢いよく転がり始めた。
尖った角が山肌にぶつかると
思わぬ方向に転がり
違う角をぶつけた。
そしてまた思わぬ方向に転がり
また違う角をぶつけた。
石は飛び跳ねるように
転がっていった。
「なんて気まぐれなやつなんだ」
見ていた木が言った。
石は痛かった。
石はいろんな角を
何度も何度もぶつけた。
やがて角は角でなくなり
石はころころと
気持ちよさそうに転がった。
もう痛みを感じなかった。
あの夢のような日々が
そうさせてくれていることを
石は知っていた。
2012/06/29 (Fri)