詩人:アル
彼女は82歳。自分の娘に対しても礼儀正しく「お名前聞いてもよろし?」と何度も尋ねる。彼女は今日も車椅子の上個室の病室の壁に向かって独り静かに座らされている。ナースセンターが見えると無闇矢鱈にボタンを押してしまうからナースたちも命を賭けて働いている。彼女たちを責めることは出来ない。記憶は復讐劇。憶えていない方が仕合わせな時もある。でもぼくの記憶は彼女の後ろ姿の映像と共に当分消えそうにない。