詩人:蒼月瑛
止まない雨がそこにはある。
明けない夜がそこにはある。
今日は妙に明るい夜だ。
蒼然たる月は、いつもより大きく見えた。
「綺麗な夜だ。」思わず口にしたくなる。
月の光は色のない、真っ白な部屋におぼしき幻影を作る。
その蒼さと言ったら、誰かがくれる菊の花とよく似合う。
うすらぼけた光と私が織りなす影が、鏡となって、私を舞台へと引きずり出した。
最初で最期の大舞台。
少しだけ緊張してきたのか、身震いがする。
たくさんの観客もいない。セットも少々盛大さに欠く。
それでも、この舞台は台本通りに進んでいく。
その正確さといったら、どんな精密機械ともひけをとらないだろう。
決められた道に沿って、照らされる舞台。
そうこうやって台本通りにゆっくりゆっくりフィナーレの時を迎えるのだ。
これまで数々の舞台を見てきた。
その中でもこの舞台は、短かくにも、非常に落ち着いたいい舞台だったろう。
そして、この舞台も、もうすぐ終わる。全て終わる。
客の静寂が涙となる時。
そうこの台詞とともに。
そして、その時がゆっくり2回ノックした。
私は大きく息を吸った。
止まない雨がここにはある。
明けない夜がここにはある。
私は静かに呼吸を止めた。