詩人:カナリア
彼には空白の時間がある
彼が言うには
その時間は突然訪れるんだって
例えば床がボコボコとした岩場に見えたり
天井が下がってきて潰されそうに見えたり
頭ん中に音楽がガンガン流れて
それは凄い気持ち悪くて
でも何だか気持ちいいんだって
馬鹿じゃないの?
あたしはそう言って彼の背中を何度も叩いた
馬鹿じゃないの?
馬鹿じゃないの?
気持ちいい事なんて
あたしがしてあげるのに
あたしがおもむろに彼自身を口にくわえると
彼は切ない顔してあたしの頭を撫で
ごめん
と一言呟いた
お願いだからもう何処にも行かないで…
あたしは次の朝
有るだけの小麦粉を全部使ってパンを焼いた
有るだけの砂糖を全部使って林檎を煮詰めた
有るだけの塩を全部使ってチキンを焼いた
彼が惑わされないように
もう二度と彼がいなくならないように