詩人:なおき
もし抱き寄せるための腕がなかったら
もし会いに行くための足がなかったら
もし想いを伝えるための口がなかったら
僕には何もできない
張り裂けそうなこの想いも
どうする事もできない
今、何を言っても君を傷付ける
何を言っても君を追い詰めるだろう
謝っても、言い訳しても、僕が発する全ての言葉は
君をイラつかせ、悲しませ、追い詰める
僕には腕もなく、足も無く、口もない
君に対して許されるのは沈黙のみか
否
きっと君の前に存在する事すら許されていないのだろう
君の願いは
僕が君の前から消える事
せめてその願いだけは叶えてあげたい
君の声が聞こえる
透明で体中に染み込む君の声
手に取るように、君の声を再現できる
不機嫌な時の君
何かに夢中になっているときの君
歌っている時の君
泣いている時の君
苦しんでいる時の君
僕の名前を呼ぶ気味
何にも代えがたい君の存在
だけど、もう、君の声を聞くことは許されない
そこにいるのは解っているのに
声をかけることも許されない
僕の言葉は力を失い
もう君を悲しませる事しかできない
ならば、せめてその願いだけは。
君の、僕に対する、最後の願いだけは。