詩人:弓胡桃
ケーキを焼いた。
真っ白いクリームを塗ったくって、
砂糖づけの果物を中にぎっしりつめこんで、
とんでもなく甘い代物。
あなたに言った。
「食べて。」
そして言った。
「ここにずっといてね。」
あの人はとうとう出ていった。
扉は閉ざされた。
私は一人になってしまったのに、
扉の向こうではあの人が、
他の誰かと笑ってる。
泣くわけにはいかない。
私の部屋は前と同じ、
甘いにおいにあふれてる。
残していったフォークで
私はケーキを食べ始めた。
その甘さのウラで
偽善の味、がした。
あなたは私のすがるような目を何を思って見ていたの?
あなたを縛りすぎたから出ていったの?
それとも私だったから出ていったの?
場違いな甘さに自分のみじめさを思い、
帰ってきて、という言葉を飲み込む。
さみしさは永遠のように思われたが、
いばらの塊のような
このケーキを食べ終えたら
その先には何かがあると
そう信じて生きていた。
そして、
甘いにおいも消えかけたあの部屋で、
顔の光をすっかり失くした
私が
のろのると
扉、を開ける。