|
詩人:トケルネコ
路上
晴天
AM *:**
不気味な男がおる
その男は時計を持たない
忘れたのか、捨てたのか
とにかく時を顧みない
不気味な男がおる
汚れた衣服を纏い
背中には袋を背負っている
何かが…みっしり詰まった袋を
無菌な月が昇っておる
だが男は上を見ない
見てもしょうがないから、上は見ない
路上
雨曇り
PM *:**
不気味な女がおる
その女は傘を持たない
忘れたのか、捨てたのか
とにかく雨に濡れている
不気味な女がおる
洒落たヒールを履いて
ブランド物のバッグを抱えている
何も…入っていない小さなバッグを
穢れた水溜まりが広がっておる
だが女は下を見ない
とうに見飽きてしまったから、下は見ない
路上
交差点
『時間です』
不気味な男と不気味な女が擦れ違う
互いに互いを見ることはない
男は背負った袋から何かを産み出す
産声が女の空っぽのバッグに谺する
男は走る
女は揺れる
男は走る
女は嗤う
男は月を抱き込む
女は水溜まりに沈む
互い互いを見ることは永遠になかった