詩人:さみだれ
弟は生まれたばかりの
純粋無垢なその手を伸ばす
君は遠くへ
庭も川も国も越えたところへ
向かうのだろう
姉は夜な夜な泣いてる
階段の下で歯を食い縛り
あなたは閉じ込められてる
ように思っているけれど
大切だから開けられないんだ
母は布団の中で
おかえりと呟く
あなたは夢の中で
穏やかに暮らしてる
夕日のさす部屋で
父は毎朝ココアを
僕に差し出し家を出る
誰より長く外にいて
誰より大きなその手で
スプーンを回す
ああ、あれはたぶん
生まれてくる前の記憶
僕が生きた匂い
君の声やあなたの仕草
忘れちゃいけない
そんな気がするだけ