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[63238] シーズン・イン・ザ・ブラック

詩人:地獄椅子

この楽園、最初の涙それは海。悲しみは真珠。
優しさは波。

溶け合う大きな愛。
美しいシンフォニー。
体中が歌い出す。
ランランラン。
圧倒的な自然の摂理の前に。
全身で歓喜の合唱。
神々は希望の小箱を、森の奥地に隠して。
高き山から見渡せる、絶景に溜息。

ランランラン。
子供達はプリズム。
争いのないユートピア。
上下強弱、隔たりのない豊かな世界。

大好きな人がそこにいて。
安らぎに憩う小鳥は青空に巣立つ。
なんて麗しき日々。
貴女の瞳の眩しさに、言葉は要らぬ。

朝昼晩。
芳ばしいパンの匂いに目覚め。
昼下がりのハーブティーで午後の息抜き。
庭の仔犬は走り回り、タンポポとじゃれ合う。
夕暮れになると貴女はブランコに座り、恋の唄を口ずさむ。
懐かしい絵本なんかを捲りながら、夜にはディナー。
一日の疲れを癒すように、温かなミルクを。
ゆったりとお風呂を。

春には桃色の花びらを掌に乗せ。
夏には浜辺で潮風と追い駆けっこ。
秋にはドングリと枯葉を集めて並べて。
冬には雪原で転んだ貴女に手を差し出す。

そして今、季節は黒く―。

ランランラン。
なんて幸せな毎日が僕らの横をすり抜けて。
ランランラン。
いつのまにやら取り残されていたんだ。
ランランラン。
期待していた通りにはいかないばかりで。
ランランラン。
もうこの声は貴女には届かない。

世界は遣る瀬なく。
僕は笑うことを忘れた。

リアルが全てを壊したんだ。
いけないのは誰とかじゃなく、きっと少しずつ変わっていった。

優しい貴女の笑顔。
まだ全然抱き足りなかった。

前略サッチモ様。
あなたが歌うワンダフルワールド。
鈍感な僕には聴こえません。
イマジンも、アメイジンググレイスも、愛の讃歌も、聴こえません。

雨にも風にも負けた僕。
腰にぶら下げた思い出が、明確に僕を参らせる。人はそうやって、美しいものを風化させてしまうんだろう。


ランランラン。
ハーモニーは今となり苦しいよ。
ランランラン。
冷めたく小さくなっちゃったね。

ランラン。

ランランラン。
貴女の写真も手紙も全部焼いたよ。

ランランラン。
この歌はなんでだろう。耳から離れないんだ。

2006/01/15 (Sun)
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