詩人:halcyon
知らない振りが彼の癖。
それがいいところでもあり悪いところでもある。
けれど、
その行動には
愛がこもっている事を
わたしは知ってる。
知っているのだ。
「おまえ、その、いつ…」
「いつ…なんです?」
「いや、やっぱりなんでもない。忘れてくれ」
「そうですね。2、3年前くらいですかね。別れたのは」
「…そうか」
「はい。別れたっていっても随分一方的でしたけど。あの人、死んじゃったんで」
私は彼の為に出来るだけ
なんでもない事のような
声を出した。
「…そうか」
俯いた彼が繰り返し呟いた一言に膝を抱えていた
手が震えた。
「そうですよ。
だから、わたしはいまひとり、です。」
ひとり、口に出したのはあまりにも久しぶりな言葉だったから、ああ、私はいままでこの言葉を無意識に避けていたんだなと思った。頬をつめたいなにかが伝った。彼はいつの間にか俯いていた顔を上げ、私を見ていた。
「おまえの傍には、いま、おれがいる」
「だから、ひとりではないだろ」
「なあ」
まっすぐ私を見てそう言った彼に、私は自分に出来るだけの笑顔を向けた。
そして涙をぐっと堪えて目を閉じた。
私はこれからの人生を彼に託そうとおもう。
いいかな?
私は、今を生きていく。
ごめんね。
愛してたよ。