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[63759] くろむし

詩人:地獄椅子

振り掛けるのはミルクだけじゃねえ。
奮い立たせるのはペニスだけじゃねえ。
サイケデリックな勇気。
つまらねえ雑音は消去して、俄然触発される、このビタースウィートな躍動に。
尻込みしていた現実を打破して。
冷徹な内省は根こそぎ嘘っぱちを覆す。

寄せ集めの知識。
借り物の思想。
自分だと思い込んだんじゃ、本物とは程遠い。

百年先など知らない。
この一瞬一秒を生きるだけ。


頭の中に虫がいるんだ。
皆そいつを「殺せ殺せ」と言うんだ。
確かにこいつは煩いし醜い。
だがしかし、いつしか俺はそいつに愛着を覚えた。

脳という籠の中の世界を、我がもの顔して勝ち誇ったように飛び回っている。
仮想永遠、自称真実。
強弁するのを聞けば聞くほど憐れで。
そいつはまるで支配者かのように振る舞う。
時々邪魔になるが、害虫として駆除する寸前、なぜか手が止まる。
もしもそいつを殺したら、どれほど強く生きられるだろう。
それこそ一瞬一秒を。

虫よ。
あらゆる負の感情を一身に抱いて。
虫よ。
空なんてないのに闇を飛んで。
虫よ。
愛に寄生し、夢に繁殖し、幸福を食らう。
虫よ。
俺は弱いまま不器用に生きるだけ。
この百年間お前を連れて。


飢餓と焦燥。
日常に没する意識。
腐乱する視界。
乱反射する光。
この目に世界は眩しすぎる。
鎧も盾もなく、傷と膿と痣ばかり。
心の下に痛みを隠し、拠り所となる孤独にしがみ付く。



ある日虫は死んでしまった。
可哀相に。最期は笑って。
俺はお前にキスをした。
忌み嫌われても懸命に生きたお前を。
そんな生き方しか、知らなかった。できなかった。
お前の逝き先は天国か?はたまた地獄か?
お前の好きな花ってなんだったっけ?
殺風景な墓で供養する。

虫よ。
お前がいなくなったら平和は実現すると人は言う。
本当か嘘かは知らない。
お前を憎悪とか欲望とか異物だとか呼ぶ奴もいる。
俺はそれを信じない。
お前は一度も優しくしてくれなかったな。
虫よ。
俺は人が恐い。
俺には時々、人が虫に見えるんだ。

一度も泣かなかった、お前は強く生きたよ。

2006/01/20 (Fri)
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