詩人:望月 ゆき
線路脇に建つ家に生まれて
ずいぶんと長い間 そこで暮らしたせいか
今でも 5分おきに
からだを揺らしてしまう
そうやって揺れているうちに
いつしか わたしは
窓ガラスの
3メートルばかし向こうの世界だけを
ただ走る
あの列車だった
単線のわたしに
休む時間はなく
ときどき
どちらが海で、どちらが山なのか、
どちらが上で、どちらが下なのか、
あるいは 右、左、
そうして その区別など
列車であるわたしには もはや
必要ないのだということさえ
知る由もなく、走りつづけている
レールの上を
滑車をまわして
ひたすらに、走る
それこそが日常なのだと
ずっと、思いこんでいた
窓ガラスの向こうで
むしろ わたしは
レールそのものだった
横たわるわたしの
うつぶせの背中を
5分おきに
知らない誰かの列車が通過してゆく
それこそが
たしかな日常だと知っても
明かりの消えた窓の外
最終列車を見送ると
わたしは
朝の方向だけを、念入りに確認して
ひととき
からだを揺らすことを忘れて 眠りにつく