詩人:千波 一也
肩が
うっすらと重みを帯びて
雨だ
と
気がつきました
小雨と呼ぶのも気が引けるほど
遠慮がちな雫が
うっすらと
もちろん
冷たくはなくて
寒くもなくて
そのかわり少しだけ
寂しくなりました
車のライトには
たくさんの夏の虫が
雨に濡れていました
二度と羽ばたいてはゆかぬ姿で
ただ
静かに
濡れていました
思い返せば見事に続いていた、晴天
熟した果実の重さに似て
前髪の先から
ポツリ、と
結露
どこかで
たしかな文字が
ゆっくりと滲んでゆく気配
きっと
とても近いところで
とても
近い
ところ
で
車内の窓が曇ってゆくので
外の景色は
少し遠くなりました
そう
まるで
記憶のかたちのような
拭っても
拭っても
窓は曇ってゆくけれど
呼吸は止められません
雨は相変わらず囁き続けていました
うっすらと
うっすら
と