詩人:さみだれ
パンを持っていた
少女は蝶ネクタイを着けた男性の前で
拙く奉仕していた
外はぼたん雪で
町は白く、重たげだった
事が終わったあと
少女は冷水で口をすすいだ
ぼろ雑巾のような服に身を包み
雪の中を裸足で歩いた
寒さで麻痺した手はパンを落とし
それを拾い、雪を払って胸に抱いた
長い帰路だった
もう目の前の外灯すら
少女には霞んで見える
外を歩く人の姿はなく
民家から漏れてくる声が
別世界から響くように聞こえた
少女はなんとなくわかった
自分の命がもう終わりかけていることに
胸に抱いたパンに
涙にも声にもならない
悲痛を挟んで
少女はかじった
少しずつ、少しずつかじった
そして
彼女の世界は終わりを告げた