詩人:千波 一也
みなもとの名を水だけは忘れない
やさしすぎるのかも知れないけれど
そうでなくては
なにも生まれてゆけなくて
それを知っているから
水は
弾丸という異物を迎えることで
鳥は空から落下してしまうように
速度こそ異なれど
確実に
水は
とても自然な流れのなかで地図から消えた場所がある
或いは
みずから隠れたのだろうか
群れをなすものたちに
たどり着くための手足は既に無く
夢をおぼえたものたちに
みとめうるための瞳は既に無く
水たちの本能だけに護られて
みなもとの名は
もっともうつくしい廃墟のなかに溢れている
没してゆくさなかには
なにものの介入も許されない
終わりゆくならば純粋に
始まってゆくならば
還る先を見まごうことの無きように
もっともうつくしい廃墟のなかで
みなもとの名を水だけが忘れない