詩人:剛田奇作
昔
彼女が助手席で夢の話をしていたのを、思い出した
私が、あなたと森で鬼ごっこをしていたの
それでね、
あなたと、はぐれちゃってね、さ迷ってたのね
で、葡萄畑を見つけたの
…葡萄畑?
葡萄は木になるんだよ
おかしいだろ、畑って
知ってるけど
だって、夢なんだから、
そりゃおかしいわよ
…まぁ、そうだ
でね、葡萄畑に入っていったらあなたがいて
なんか、埋めてるの
何を埋めてた?
たぶん、星だと思う
ホシ、って空の?
うん、空の
あ!ねぇ、この店
行ったことないから食べてみたい!
彼女は 小さなパスタ屋を指差した
その頃の俺は、
何かを失うってことが
どんなことか、解っていなくて
失う自覚も、
覚悟も、
なかった
ただ、与えられる日常に甘んじて生きている
無知な男だった