詩人:けむり
風を切る音は気持ちよかった
生まれつきおろかにできているおれは
透明なかごの中で
飼われているのが似合いね
ああ ただ生きていたのに
あの子が他の女の子とは別ものに見えるから
一人ではいられなくなってしまった
切なくて体が震えてしまいます
首筋がほてる
淋しさのあぎとに喰われ
内ももがもだえる
恥ずかしい
なんて だらしがないんだ
女の子に心を奪われるなんて
みっともないったらありゃしないよ
はじを感じることが防壁を瓦解させる
夜風が気持ちよく冷たい
ベランダの適度な接地感のなさ
それは三途の岸辺にも似ているようだな
じきに訪れる静寂に満ちた闇
そこから聞こえる淋しげないざない
音 左胸の メトロノームよりも不安定な
ガラスが砕けるよりも耳障りな ア ア 淋しい
ただあの子を想うことがみじめで
心音のやるせなさをせない
風を切る音は気持ちよかった
おれ以外全部置き去りにする音なんだ
その速度 生という束縛からの解放であり
死という幕の享受 そこへたどり着くための速度
安らぎと妥協の合致点
成功と冒険心を計る天秤
弱さと罪の融合性
生を受け止めうるものは死だけであるとするならば
想いを受け止めうるものとは?
あの子は気づいてさえもいないんだろう