詩人:中村真生子
フリースのポケットから
卵を取り出して
「こんなところに卵が…」とキミ。
「いつから入れていたの。
もう食べられないかも」とワタシ。
「さっき入れたんだよ」とキミ。
「なあんだ、ウケねらい?」とワタシ。
おかしいと思えたのは
食事も終わって
食器を洗っているとき。
キミの一連の行動に思いをはせ
ワタシはクスクスと一人で笑う。
そんなふうにあとから気づくのだろう。
それがかけがえのないひと時であったことに。
思い出のアルバムをめくるように
時のアルバムをめくりながら…。
暦の上ではもう春。
けれど、体に届くまではまだもう少し。
今はまだポケットの中。
一個の小さな卵のごとく…。