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朱雀の部屋  〜 投稿順表示 〜


[11] 空の色が青いのは
詩人:朱雀 [投票][編集]


空の色が青いのは 一体 如何なる所以でしょう?

「それはつまり

『レイリー散乱』なる現象が大気の向うで忙しくおこり

7つの色の可視光のうち最も多く地上に着くのが

青い光という所為なのだよ」


ほつれた糸をツイとひっぱり

見過ごすには大きすぎる穴の空いたポケットに

無理矢理右手を突っ込んで 物知り博士は言うのです


だけども博士

見上げた空が青いというだけで どうして心は晴れるのでしょう?

こごり雲に覆われた鈍い空が長く続くと

青い空が恋しくなるのは果たしてどういう訳でしょう?

例えば空が黄色でも同じ思いになるのでしょうか?


「いやはや それは科学ではなく・・・」

皺くちゃになったハンカチで萎びた顔を拭きながら 

博士は扉を閉めました

遠くて見えない光の事は分るのに?


「それが浪漫というものなんだよ」

売れない詩人が謳うように言うのです

青い空を書けもしないのに


「心を映す鏡ということさ」

似てない似顔絵描きが絵の具に塗(まみ)れて言うのです

青い空を描けもしないのに 


空の色が青いのは 

「レイリー散乱」とやらが浪漫を見せて心を映してくれるから・・・

ひとまずそれで良しとしましょう


それなら

空の色が青いのと海の色が青いのは

一体 如何なる由縁でしょう?

2008/10/11 (Sat)

[12] 先夜のほどろ
詩人:朱雀 [投票][編集]


後れ毛 梳くうて そっぽ向き

微かに震える伏せ睫毛
 
「辛くはないの?」と、宵の月


若やる胸に絡ませた

好きと嫌いの綴れ織り

先夜の淵に咲く花を

見ては見ぬふり 気が揉める


不意にそぼ降る涙雨

雨音(あまね)に混じる透声に

「また会えるの?」と、霽の月


濡れて濡れて泣き濡れて

ぽつんと穿(う)げた胸の奥

先夜の真星(まぼし)に散る花の

儚き影が いと悲し


知らずに漏れた 溜息が

足元(あもと)に奔り 青鈍の海

「まだ恋しいの?」と、名残月


凛と結んだ桜桃(くちびる)の

かくのみ故に 恋ひやわたらむ

先夜の果(はて)に舞う花の

物狂おしい あで姿

2008/10/11 (Sat)

[13] ヘルメスの月
詩人:朱雀 [投票][編集]


音もなく

無窮の果ては闇に落ち

虚空の下で

貪婪(どんらん)な渇きは癒えず


玲瓏たる

銀の雫に月は盈ち

秤の上で

静謐な焔(ほむら)を煽る


魂(たま)が振れ

産霊(むすひ)は解(ほど)け 月を欠き

器を返し

潺湲(せんかん)と滴る水銀


海(あま)は凪ぎ

底方(そこい)に宿るあらたまは

昇華を成して

悠然と朱に染め上がる



――瓏銀の水面(みなも)に惑うエトランゼ

       バーミリオンの月はかくれて――

2008/10/11 (Sat)

[14] 青また碧く
詩人:朱雀 [投票][編集]

 
底(そこり)埋もれた徒花(あだばな)を

渇いた心で 追い次(すが)い

皸裂(きれつ)の隙より沁み渡る

雲際に伏す 海天藍


花梅花皮(はなかいらぎ)に魅せられて

まにまに揺れる 侘戯は

ただ悪戯に輪を描いて

再び底(そこり)に掻い潜む


透けた虚白を埋め尽くし

牢籠の淵まで青また碧く

2008/10/13 (Mon)

[15] 秋思符 〜短歌〜
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夕暮れの 緋(あけ)に合え照る狐花 

    燃ゆるおもいひを たれによすらむ




丹桂の にほふ夕べの悲しきに

    かへりこぬ日を 夢になさばや




思ひいづるときはの山の梢さへ

     紅くそめなす 秋の夕暮れ




ほに出でて こぬ人まねく花すすき

     風よりほかに 見るひとぞなき

2008/10/13 (Mon)

[16] 鈴 慕
詩人:朱雀 [投票][編集]


時の端尾(はつお)を 握り締め

いまだ名もなき形(なり)を孕み

音なき音に耳を欹(そばだ)て

真空妙有の現(うつ)に凪ぐ


深遠に籠(こ)む白い背に

腫れた日常 穿つがごとく

瓊枝(けいし)に掛けた

鐸鈴(たくれい)が

シャラン シャリリと音連れて

シャラン シャリリと霊(ひ)を揺(いぶ)る


い繋(つが)る言の葉 依り代(しろ)に

褻(け)にも晴れにも

奔放不羈な魂(たま)を刻まん

2008/10/14 (Tue)

[17] 雨 下
詩人:朱雀 [投票][編集]




雨 しゃらしゃら降りて

樋(とゆ)を伝い

渦巻きながら  

かいしょに 落ちる天水


雨音 それは地に当たる音にあらず

ただ降る雨に音がある

そう言ったのは誰だったろう?


霞む山のむこうで

鷹は愁いの毛を立て

ゆるりと流るる時を待つ


雨粒に揺れる葉の裏には

蝶と孵るか蛾と生(な)るか

白い卵がみしりと連なり

カチカチと鈍る細胞にさえ

流れる時を刻み込む


雨 しゃらしゃら降りて

樋(とゆ)から溢れ

飛び散る飛沫は

やがて間もなく土に沁(し)む

2008/10/15 (Wed)

[18] 祭囃子
詩人:朱雀 [投票][編集]


高天に 先立(さきだ)ち渡る笛の音(ね)に

つられて響く 馬鹿囃子


浮かれ拍子に 浮気酒

燥(はしゃ)ぐ半被の裏側に

しとと張り付く やるせなさ


釣り合い人形 左右(そう)に揺れ

昔者(せきしゃ)と来者(らいしゃ)が行き交じり

渡御(とぎょ)を遊戯(ゆげ)する 頑是無さ


木偶(でく)の人形 影向(ようごう)の音(ね)に

目垂顔(めだれがお)して しゃちこばり

傀儡回(くぐつまわし)の 不甲斐なさ


暮天(くれてん)の 帰路に幽かな鉦(かね)響き

狸囃子の 鎮魂(たましずめ)

2008/10/16 (Thu)

[19] 胡蝶の夢より
詩人:朱雀 [投票][編集]


栩栩然(ひらひら)舞いて 胡蝶なり

夢か現(うつつ)か定めがつかず

泡沫(うたかた)の淵に腰おろし

傾げた首に掛けた手は

確かに指は付いてはいるが

人形(ひとがた)をした

蝋細工に見えやしないか?


遽遽然(きょきょぜん)とした有様は

我がことながら滑稽で

肩を震わせ捧腹すれど

脳裡の隅で途方に暮れる―――


分(けじ)めが有ろうが無かろうが

この世はすべて邯鄲(かんたん)の夢

現(うつつ)もいつかは霞んで消える

耳打ちするのは邪(よこしま)な蝶


それなら共に

栩栩然(ひらひら)舞いて戯れて

物化(ぶっか)を享楽するも 

また一興

2008/10/17 (Fri)

[20] 目眩
詩人:朱雀 [投票][編集]


巡る季節が秋を謳歌し

饒舌な色彩が手招く


蒼穹(そうきゅう)を遮る木の葉しぐれは

淅瀝(せきれき)の音を連れ

刹那の秋を 彩(だ)み返す


さながら纏綿(てんめん)としたメサイア

惰弱な愚者(おれもの)は

記憶への耽溺に病み

足下(そっか)を攫う浮遊感

ここだけ時が止まったような

都合のいい錯覚と譫妄(せんもう)・・・


見上げる事のない空には

索然(さくぜん)とした真昼の月が

ぼんやり浮かんでいるのだろう

2008/10/18 (Sat)
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